第1回 日韓NGO湿地フォーラム 予稿集
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- 승만 차
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2 第 1 回 日 韓 NGO 湿 地 フォーラム 開 催 に 際 して 日 本 湿 地 ネットワーク WWFジャパン 2008 年 10 月 28 日 から 韓 国 昌 原 市 で 健 全 な 湿 地 健 康 な 人 々("Healthy Wetlands, Healthy People") をテーマとするラムサール 条 約 第 10 回 締 約 国 会 議 (COP10)が 開 催 され それに 先 立 って10 月 26 日 からプレNGO 会 議 が 開 催 される 2008 年 の 韓 国 でのCOP10は 1993 年 釧 路 で 開 催 されたCOP5 以 来 15 年 ぶりの 東 アジアで の 開 催 になり 東 アジア 地 域 における 湿 地 保 全 の 取 組 を 推 進 する 絶 好 の 機 会 である しかしながら 東 アジアでは 日 本 の 諫 早 韓 国 のセマングムに 代 表 される 大 規 模 干 拓 工 事 による 干 潟 の 破 壊 喪 失 が 続 き また 農 薬 化 学 肥 料 を 多 用 する 集 約 型 の 稲 作 の 普 及 によって 水 田 における 生 物 の 多 様 性 が 急 速 に 失 われるなど この50 年 ぐらいの 間 に それまで 伝 統 的 農 漁 業 が 続 けてきた 湿 地 の 賢 明 な 利 用 の 営 みがことごとく 失 われてしまっ た このままでは 持 続 不 可 能 なことは 明 らかであり 東 アジアで 湿 地 の 賢 明 な 利 用 を 実 現 する 社 会 経 済 システムの 再 構 築 は 喫 緊 の 課 題 となっている また ラムサール 条 約 は NGOの 湿 地 保 全 の 取 り 組 みから 生 まれた 国 際 条 約 であり 3 年 ごとに 開 催 されるCOPもNGOの 活 発 な 活 動 による 成 果 を 取 り 入 れながら 賢 明 な 利 用 を 中 心 とした 湿 地 保 全 の 方 法 論 を 深 化 させてきた しかし 2005 年 のウガンダで のCOP9では 締 約 国 以 外 の 第 三 者 ( 主 に 各 国 の 地 域 NGO)からのセマングムなどの 湿 地 の 状 況 に 関 する 報 告 に 門 戸 を 開 くことを 問 題 視 する 発 言 があり 本 会 議 中 はNGOの 会 議 場 所 の 確 保 さえ 容 易 でなかったなど COPにおけるNGOに 対 する 位 置 づけが 大 き く 後 退 してしまった COP10において 日 韓 NGOが 地 域 NGOとして 締 約 国 に 対 し 今 回 のCOP のテーマである 健 全 な 湿 地 健 康 な 人 々("Healthy Wetlands, Healthy People") に 即 し て 東 アジアでの 湿 地 の 賢 明 な 利 用 を 実 現 する 社 会 経 済 システムの 再 構 築 の 提 言 を 行 い 東 アジア 地 域 の 湿 地 保 全 政 策 の 展 開 を 主 導 することができれば これらの 問 題 を 解 決 する ものとして 画 期 的 意 義 がある 日 本 湿 地 ネットワーク(JAWAN)とWWFジャパンは そのための 第 一 歩 として この 第 1 回 日 韓 NGO 湿 地 フォーラムを 共 催 した 10 月 12から14 日 までの3 日 間 の 議 論 を 踏 まえ 今 後 東 アジアにおける 湿 地 の 賢 明 な 利 用 の 再 構 築 をめざすために NGO の 立 場 から 様 々な 問 題 提 起 と 要 請 行 動 をラムサール 事 務 局 日 韓 両 国 政 府 をはじめ 各 締 約 国 関 係 諸 機 関 に 対 し 行 い また COP10 本 会 議 に 大 きな 影 響 力 を 持 ちうるようなプ レNGO 会 議 を 準 備 して COP10で 日 韓 NGOの 大 きな 力 を 示 して 行 きたい なお このフォーラムは WWFエコ パートナーズ 事 業 2007 年 度 第 二 期 の 助 成 を 受 けて 開 催 するものである J-1
3 第 1 回 日 韓 NGO 湿 地 フォーラム( 2007 年 10 月 12~14 日 ) プ ロ グ ラ ム 10 月 12 日 テーマ 日 韓 における 湿 地 の 現 状 と 湿 地 政 策 を 検 証 する 12:00 開 場 12:30 第 1 日 目 フォーラム 開 始 進 行 : 堀 良 一 12:30-12:40 趣 旨 説 明 : 堀 良 一 (10 分 ) 12:40-14:40 両 国 の 典 型 事 例 にみるそれぞれの 国 の 公 共 事 業 による 湿 地 破 壊 の 問 題 有 明 海 諫 早 湾 の 干 潟 生 態 系 保 全 と 諫 早 湾 干 拓 事 業 -ラムサール 条 約 は 日 本 最 大 の 干 潟 浅 海 息 を 守 れるか: 菅 波 完 (40 分 ) 韓 国 セマングム ナクトンガンでの 湿 地 破 壊 の 状 況 :キム キョンウォン パク チュンロク( 計 80 分 ) 14:40-15:00 休 憩 15:00-18:30 パネルディスカッション( 途 中 17:00-17:20 休 憩 ) 進 行 : 堀 良 一 テーマ: 公 共 事 業 による 湿 地 破 壊 の 両 国 の 問 題 点 とその 克 服 の 方 向 パネリスト: 花 輪 伸 一 ( 総 合 パネリスト) 竹 下 幹 夫 ( 宍 道 湖 中 海 ) 前 川 盛 治 ( 泡 瀬 干 潟 ) 杉 沢 拓 男 ( 釧 路 湿 原 ) キム ドクソン(マドン 湖 ) キム デファン(インチョン 干 潟 ) イ ピョンジュ(チョンス 湾 ) J-2
4 10 月 13 日 テーマ 東 アジアにおける 湿 地 の 賢 明 な 利 用 の 再 構 築 をめざして 8:40 開 場 9:00 第 2 日 目 フォーラム 開 始 午 前 進 行 : 浅 野 9:00-9:10 伝 統 的 農 漁 業 によって 実 現 していた 湿 地 の 賢 明 な 利 用 とその 喪 失 趣 旨 説 明 と 問 題 提 起 -: 浅 野 正 富 (10 分 ) 9:10-9:50 生 物 多 様 性 を 利 用 した 稲 作 ふゆみずたんぼ の 挑 戦 蕪 栗 沼 から 全 国 へ- その1 水 鳥 との 共 生 を 可 能 とするふゆみずたんぼ: 呉 地 正 行 (20 分 ) その2 環 境 創 造 型 農 業 の 展 開 と 田 んぼの 生 き 物 調 査 : 岩 渕 成 紀 (20 分 ) 9:50-10:10 東 アジアにおける 環 境 創 造 型 稲 作 の 展 開 をめざして: 稲 葉 光 國 (20 分 ) 10:10-10:40 韓 国 における 水 田 と 湿 地 保 全 :キム ヒョンミ キム キョンウォン(30 分 ) 10:40-10:55 休 憩 10:55-11:30 持 続 可 能 な 沿 岸 漁 業 に 不 可 欠 な 干 潟 その 機 能 と 保 全 : 佐 々 木 克 之 (35 分 ) 11:30-12:00 韓 国 における 湿 地 と 漁 民 :ヨ ギルク(30 分 ) 12:00-12:45 討 論 12:45-13:30 昼 食 午 後 進 行 :: 花 輪 13:30-13:40 すべての 湿 地 を 賢 明 に 利 用 していくために - 趣 旨 説 明 と 問 題 提 起 -: 花 輪 伸 一 (10 分 ) 13:40-14:15 市 民 型 公 共 事 業 霞 ヶ 浦 アサザプロジェクト~ 中 心 のない 動 的 ネットワークで 社 会 の 壁 を 溶 かし 膜 に 変 える : 飯 島 博 (35 分 ) 14:15-14:40 藤 前 干 潟 から 伊 勢 三 河 湾 流 域 へ: 辻 淳 夫 (25 分 ) 14:40-15:15 河 川 整 備 計 画 は 湿 地 の 賢 明 な 利 用 を 実 現 できるのか: 姫 野 雅 義 (35 分 ) 15:15-15:55 ヨンサン 江 流 域 の 現 状 と 将 来 計 画 :ユ ヨンウップ(40 分 ) 15:55-16:10 休 憩 16:10-16:40 ほぼ100% 埋 め 立 てられた 大 阪 湾 岸 の 埋 立 地 における 湿 地 再 生 - 大 阪 南 港 野 鳥 園 での24 年 間 にわたる 湿 地 づくり-: 高 田 博 (30 分 ) 16:40-16:55 モニタリングが 支 える 湿 地 の 賢 明 な 利 用 -シギ チドリ 類 調 査 をどう 生 かすか-: 柏 木 実 (15 分 ) 16:55-17:10 日 韓 共 同 干 潟 調 査 団 による 韓 国 セマングム 海 域 のモニタリング 調 査 : 佐 藤 慎 一 (15 分 ) 17:10-17:35 黄 海 沿 岸 の 保 全 と 賢 明 な 利 用 : 東 梅 貞 義 (25 分 ) 17:35-18:05 韓 国 の 市 民 生 態 調 査 およびモニタリングプログラム:ナム ソンジョン(30 分 ) 18:05-18:20 休 憩 18:20-19:15 討 論 19:30-21:00 懇 親 会 J-3
5 10 月 14 日 テーマ NGOはCOP10で 何 をなすべきか 8:40 開 場 9:00 第 3 日 目 フォーラム 開 始 全 体 司 会 : 菅 波 完 ( 午 前 ) 9:00-9:25 日 本 の 地 域 NGO による CEPA 活 動 実 施 状 況 と 課 題 - 聞 き 取 りアンケートをもとに-: 伊 藤 よしの(25 分 ) 9:25-9:50 韓 国 における CEPA 活 動 の 現 状 と 課 題 :ソニョン(25 分 ) 9:50-10:15 韓 国 における CEPA 事 例 研 究 -ガンファ 干 潟 センター-:チャン ドンヨン(2 5 分 ) 10:15-10:55 ラムサール 条 約 :COP5 から COP10 へ~アジアの 会 議 を 転 換 点 に: 小 林 聡 史 (4 0 分 ) 10:55-11:05 休 憩 11:05-11:30 キョンナン 沿 岸 の 湿 地 の 現 状 とラムサール 会 議 の 準 備 状 況 :イム ヒジャ(2 5 分 ) 11:30-11:55 なぜ 条 約 湿 地 登 録 をめざすのか- 渡 良 瀬 遊 水 池 から: 高 松 健 比 古 (25 分 ) 11:55-12:20 韓 国 COP10 は 何 をめざしているのか:イ インシュク(25 分 ) 12:20-13:20 昼 食 13:20-16:00 徹 底 討 論 COP10までの 戦 略 と 行 動 計 画 進 行 : 菅 波 完 堀 良 一 過 去 のCOPでNGOが 果 たした 役 割 日 本 からの COP10 への 参 加 韓 国 側 受 け 入 れについて NGO 会 議 の 持 ち 方,テーマ,NGO 会 議 の 決 議 によるアピール 等 諫 早 セマングムの 再 生 を 目 指 す 活 動 をどのように 展 開 するか 東 アジアでの 湿 地 の 賢 明 な 利 用 の 再 構 築 をめざす 決 議 を 本 会 議 で 採 択 させ る 動 きかけをどうするか ラムサールCOP10と 生 物 多 様 性 COP10をどう 繋 いでいくか 16:00-16:10 日 韓 NGO 湿 地 フォーラム 宣 言 採 択 16:10 閉 会 J-4
6 第 1 回 日 韓 NGO 湿 地 フォーラム(2007 年 10 月 12~14 日 ) コーディネーター 報 告 者 パネリスト 一 覧 堀 良 一 よみがえれ! 有 明 訴 訟 弁 護 団 JAWAN 菅 波 完 諫 早 干 潟 緊 急 救 済 東 京 事 務 所 JAWAN 花 輪 伸 一 WWFジャパン 竹 下 幹 夫 宍 道 湖 中 海 汽 水 湖 研 究 所 前 川 盛 治 泡 瀬 干 潟 を 守 る 連 絡 会 杉 沢 拓 男 NPO 法 人 トラストサルン 釧 路 浅 野 正 富 JAWAN 呉 地 正 行 日 本 雁 を 保 護 する 会 JAWAN 岩 渕 成 紀 NPO 法 人 田 んぼ 稲 葉 光 國 NPO 法 人 民 間 稲 作 研 究 所 佐 々 木 克 之 元 中 央 水 産 研 究 所 飯 島 博 NPO 法 人 アサザ 基 金 わたらせ 未 来 基 金 辻 淳 夫 NPO 法 人 藤 前 干 潟 を 守 る 会 JAWAN 姫 野 雅 義 吉 野 川 シンポジウム 実 行 委 員 会 高 田 博 NPO 法 人 南 港 ウェットランドグループ 柏 木 実 JAWAN 佐 藤 慎 一 東 北 大 学 東 梅 貞 義 WWFジャパン 小 林 聡 史 釧 路 公 立 大 伊 藤 よしの JAWAN 高 松 健 比 古 渡 良 瀬 遊 水 池 を 守 る 利 根 川 流 域 住 民 協 議 会 JAWAN キム キョンウォン KFEM 湿 地 センター パク チュンロク 湿 地 と 鳥 たちの 友 だち キム ドクソン 環 境 と 生 命 を 守 る 教 師 の 会 キム デファン 韓 国 野 生 鳥 類 協 会 インチョン( 仁 川 ) 民 間 湿 地 委 員 会 イン チョン 緑 色 連 合 イ ピョンジュ ソサン( 瑞 山 )KFEM キム ヒョンミ 韓 国 生 協 連 合 国 際 チーム ヨ ギルク ソチョン( 舒 川 )KFEM ユ ヨンウップ モッポ( 木 浦 )KFEM ナム ソンジョン インチョン 環 境 生 態 教 師 の 会 ソニョン KFEM 湿 地 センター チャン ドンヨン KFEMガンファ 干 潟 センター イム ヒジャ マサン チャンウォン( 馬 山 昌 原 )KFEM イ インシク キョンナム アジェンダ( 慶 南 議 題 )21 JAWAN: 日 本 湿 地 ネットワーク KFEM: 韓 国 環 境 運 動 連 合 J-5
7 10 月 12 日 日 韓 における 湿 地 の 現 状 と 湿 地 政 策 を 検 証 する ( 趣 旨 説 明 ) 堀 良 一 日 韓 両 国 において 湿 地 保 全 が 国 の 政 策 課 題 として 意 識 されるようになったのは 1992 年 の 地 球 環 境 サミット(リオデジャネイロ)において 生 物 多 様 性 条 約 が 採 択 され これに 続 く 翌 1993 年 のラムサール 条 約 第 5 回 締 約 国 会 議 の 成 功 によって 生 物 多 様 性 の 宝 庫 としての 湿 地 保 全 の 機 運 が 高 揚 してからである それまで 湿 地 は 役 にたたない 場 所 として もっぱら 開 発 の 対 象 となっていた た とえば 干 潟 は その 価 値 はかえりみられず 干 拓 や 埋 立 に 好 都 合 の 場 所 としてとら えられていた これ 以 後 日 本 においては 少 なくとも 表 面 的 には 湿 地 保 全 か 開 発 かという 単 純 な2 者 択 一 の 関 係 で 議 論 されることはなくなった 韓 国 においても おそらくは 同 じ ような 経 過 があると 思 われる そのような 湿 地 保 全 の 機 運 のなかで かつて 山 下 弘 文 氏 が いくら 運 動 してもなか なか 展 望 を 見 いだすことができない 困 難 な 保 全 運 動 を 励 ましながら 負 けてもともと 勝 ったらおおごと とユーモアたっぷりに 表 現 した 出 口 のない 状 況 は 次 第 に 過 去 のも のになりつつある 90 年 代 後 半 になると 日 本 では 藤 前 三 番 瀬 曽 根 中 海 と 湿 地 の 開 発 計 画 が 撤 回 縮 小 延 期 されるという それまでなかった 事 態 が 生 まれた 乱 開 発 は 頑 張 れば 止 められる というように 歴 史 は 確 実 に 転 換 しようとしている しかしながら 乱 開 発 から 湿 地 を 守 ろうとする 保 全 運 動 は いまだ 発 展 途 上 である 日 本 においても 韓 国 においても 湿 地 乱 開 発 の 象 徴 ともいうべき 国 家 事 業 とし ての 最 大 規 模 の 乱 開 発 がいまだにストップをかけられないでいる 諌 早 とセマングム がそれである 乱 開 発 の 事 例 は 泡 瀬 干 潟 をはじめ まだまだ 少 なくない また 三 番 瀬 をはじめ 乱 開 発 の 中 止 がそのままストレートに 保 全 と 評 価 できる 状 態 に 結 びつ くものではないという 状 況 も わたしたちは 経 験 している このフォーラムの 第 一 目 は まず 両 国 の 乱 開 発 の 象 徴 ともいうべき 諌 早 セマ ングムの 現 状 について ご 報 告 いただき その 後 パネルディスカッションにおいて 湿 地 保 全 の 現 状 と 課 題 について 多 角 的 に 議 論 を 行 い COP10を 契 機 に 更 に 両 国 における 湿 地 の 保 全 が 前 進 するための 運 動 側 の 課 題 について 明 らかにしたいと 考 えて いる J-6
8 有 明 海 諫 早 湾 の 干 潟 生 態 系 保 全 と 諫 早 湾 干 拓 事 業 -ラムサール 条 約 は 日 本 最 大 の 干 潟 浅 海 域 を 守 れるか 1. 有 明 海 諫 早 湾 の 生 態 学 的 特 徴 有 明 海 漁 民 市 民 ネットワーク 菅 波 完 有 明 海 は 九 州 西 部 に 南 側 から 深 く 入 り 込 んだ 内 湾 で 湾 軸 延 長 96km 平 均 幅 18km 面 積 1,700km 2 平 均 水 深 は 約 20m である 諫 早 湾 は 有 明 海 から 西 側 に 入 り 込 んだ 面 積 75km 2 の 内 湾 で ある 有 明 海 の 特 徴 は 5m を 越 える 干 満 差 とそれに 伴 う 強 い 潮 流 多 量 の 浮 泥 沿 岸 に 広 がる 広 大 な 干 潟 浅 海 域 である 環 境 省 の 調 査 による 有 明 海 の 干 潟 面 積 は 207km 2 で 国 内 の 干 潟 面 積 の 約 40%に 相 当 する 有 明 海 は 生 物 多 様 性 に 富 んでおり 底 生 生 物 や 魚 類 など 特 産 種 準 特 産 種 も 多 い 渡 り 鳥 の 渡 来 地 としても かつては 国 内 でもっとも 多 くの 渡 り 鳥 が 訪 れる 場 所 であった 漁 業 生 産 性 も 国 内 有 数 であり 過 去 の 年 間 最 大 漁 獲 量 13.6 万 トンは 面 積 比 で 瀬 戸 内 海 の 4 倍 容 積 比 で 6 ~7 倍 にも 及 ぶ 諫 早 湾 は 有 明 海 の 中 でも 特 に 生 物 多 様 性 の 高 い 泥 干 潟 が 発 達 しており 諫 早 湾 の 干 潟 浅 海 域 は 多 くの 魚 介 類 の 産 卵 生 育 場 所 として 文 字 通 り 有 明 海 の 子 宮 の 役 割 を 果 たしてき た これは 同 時 に 渡 り 鳥 や 漁 業 による 取 り 上 げを 通 じた 水 質 浄 化 のシステムでもあった 2. 諫 早 湾 干 拓 事 業 による 有 明 海 異 変 諫 早 湾 干 拓 事 業 は 諫 早 湾 の 奥 部 3,550ha を 全 長 7,050m の 潮 受 堤 防 で 閉 め 切 り 堤 防 内 部 に 816ha の 農 地 と 2,600ha の 調 整 池 等 を 造 成 するものである 事 業 の 環 境 アセスメントでは 諫 早 湾 の 閉 め 切 りによって 生 物 相 の 生 息 域 や 産 卵 場 など を 一 部 消 滅 させるが このことが 有 明 海 の 自 然 環 境 に 著 しい 影 響 を 及 ぼすものではなく その 影 響 は 計 画 地 周 辺 に 限 られることから 影 響 は 許 容 しうる と 結 論 づけた 実 際 の 事 業 の 影 響 は 1989 年 の 潮 受 堤 防 工 事 着 工 以 降 工 事 による 濁 り 等 により 諫 早 湾 内 の タイラギが 不 漁 に 陥 り 1993 年 以 降 は 漁 獲 がゼロになった 1997 年 4 月 14 日 の 諫 早 湾 閉 め 切 りによって 諫 早 湾 の 干 潟 浅 海 域 は 干 上 がり 魚 介 類 の 重 要 な 産 卵 生 育 場 所 が 失 われた さらに 諫 早 湾 を 閉 めきったことが 有 明 海 奥 部 の 潮 流 潮 汐 を 弱 め 赤 潮 の 規 模 や 頻 度 の 上 昇 成 層 の 強 化 貧 酸 素 水 塊 の 頻 発 など スパイラル 的 に 海 洋 環 境 の 悪 化 を 招 いた 2000 年 12 月 には 大 規 模 な 赤 潮 が 発 生 ノリ 養 殖 の 大 凶 作 を 招 き 有 明 海 異 変 として 社 会 問 題 化 し た 漁 船 漁 業 やタイラギ アサリなどの 採 貝 漁 業 については ノリ 養 殖 ほどの 大 きなニュースに なってはいないものの 工 事 着 工 潮 受 堤 防 閉 め 切 り 以 降 状 況 はますます 深 刻 化 している 有 明 海 異 変 の 顕 在 化 を 受 け 2001 年 には 事 業 の 時 のアセス でも 事 業 の 見 直 しを 求 める 答 申 が 出 され 農 地 造 成 面 積 は 当 初 計 画 の 半 分 に 縮 小 されたが 事 業 の 基 本 的 な 枠 組 み は 維 持 され 国 側 は 2008 年 度 からの 営 農 開 始 を 目 指 している 調 整 池 の 水 質 は 現 時 点 でも 目 標 値 を 大 幅 に 上 回 っているが 今 後 営 農 が 開 始 されれば 農 業 排 水 などにより さらに 水 質 が 悪 化 し 有 明 海 への 負 荷 も 高 まるおそれが 強 い 3. 有 明 海 諫 早 湾 の 賢 明 な 利 用 とラムサール 条 約 諫 早 湾 をはじめとする 有 明 海 の 干 潟 浅 海 域 は ラムサール 条 約 湿 地 の 選 定 基 準 に 照 らせば 自 然 度 の 高 い 湿 地 タイプの 代 表 であり 希 少 または 固 有 な 例 を 含 む 湿 地 であること( 基 準 1) 絶 滅 のおそれのある 生 態 学 的 群 集 を 支 えていること( 基 準 2) 水 鳥 の 個 体 群 の 1% 以 上 を 定 期 的 に 支 えていること( 基 準 6) 固 有 な 魚 類 の 個 体 群 の 維 持 に 貢 献 し 魚 類 の 含 め 産 卵 場 稚 魚 の 生 育 場 であること( 基 準 7,8) 等 から 最 優 先 で 条 約 湿 地 に 登 録 すべき 湿 地 である しかし 諫 早 湾 干 拓 事 業 の 計 画 地 であることから 登 録 の 議 論 の 遡 上 にもあがらない 一 方 有 明 海 奥 部 では 干 潟 の 堆 積 とともに 地 先 を 干 拓 していくことは むしろ 伝 統 的 な 沿 岸 利 用 の 方 法 であった その 場 合 干 拓 地 の 地 先 に 同 等 の 干 潟 が 残 され 将 来 の 世 代 の 必 要 と 期 待 が 満 たされるかたちで 干 潟 の 機 能 が 維 持 されていた これは ラムサール 条 約 のイメー ジする 賢 明 な 利 用 の 実 践 に 他 ならない J-7
9 4. 有 明 海 再 生 にむけて 国 も 有 明 海 が 極 めて 貴 重 な 自 然 環 境 であり 水 産 資 源 の 宝 庫 であることは 認 め 有 明 海 八 代 海 特 別 措 置 法 を 制 定 し 学 識 経 験 者 などによる 評 価 委 員 会 を 設 置 したが 有 明 海 異 変 の 根 本 原 因 である 諫 早 湾 干 拓 事 業 などの 開 発 事 業 の 是 非 には 踏 み 込 まず 目 的 意 識 の 欠 けた 調 査 の 継 続 覆 砂 や 海 底 耕 耘 などの 対 症 療 法 的 な 再 生 事 業 などを 議 論 するばかりであった 農 水 省 などは 諫 早 湾 干 拓 事 業 によって 豊 かな 干 潟 が 失 われたことを 棚 に 上 げ 九 州 最 大 級 の 淡 水 性 の 湖 沼 内 陸 性 湿 地 生 態 系 が 形 成 されつつあります と 主 張 する 始 末 である 諫 早 湾 干 拓 事 業 については 工 事 差 し 止 めの 訴 訟 漁 業 被 害 と 事 業 との 因 果 関 係 の 認 定 を 求 める 公 害 調 停 等 がおこされたが いずれも 最 終 的 な 司 法 判 断 において 事 業 の 影 響 を 否 定 する 国 側 の 主 張 が 認 められなかったにもかかわらず 因 果 関 係 が 明 らかではないとして 漁 業 者 な どの 訴 えが 退 けられた 諫 早 湾 干 拓 事 業 の 問 題 は 国 が 進 める 事 業 が 干 潟 環 境 にダメージを 与 える 場 合 果 たしてラ ムサール 条 約 がどの 様 に 機 能 しうるか という 問 題 を 突 きつける 私 たちは 諫 早 湾 干 拓 事 業 が 農 地 造 成 においても 地 元 自 治 体 におよぼす 財 政 負 担 等 にお いても いずれ 確 実 に 失 敗 する 事 業 であると 確 信 している たとえ 工 事 が 完 成 したとしても 失 われた 諫 早 湾 干 潟 を 再 生 させるような 代 替 案 に 転 換 することの 方 が 社 会 的 なメリットが 大 きいという 試 算 も 示 してきた 環 境 面 でのダメージを 最 小 限 に 食 い 止 めるためにも 一 刻 も 早 く 事 業 を 中 止 させ 本 当 の 意 味 での 干 潟 生 態 系 の 再 生 に 向 けて 政 策 転 換 を 迫 らなければなら ない その 過 程 でラムサール 条 約 がどの 様 に 機 能 するのか また 私 たちがどの 様 にラムサー ル 条 約 を 活 用 できるのか 2008 年 に 韓 国 で 開 かれる COP10 に 向 けた 私 たちの 大 きな 課 題 であ る J-8
10 洛 東 江 河 口 と 洛 東 江 河 口 の 保 全 運 動 ( ) 湿 地 と 鳥 たちの 友 達 朴 重 錄 (パク チュンロク) I. 洛 東 江 河 口 とは 1. 洛 東 江 河 口 の 自 然 條 件. 12,536ha( km 2 )に 達 する 広 大 な 面 積. 爽 やかな 夏 と 冬 でも 凍 らない 暖 かい 氣 候 條 件. 堆 積 作 用 であちこち 現 れる 肥 沃 な 三 角 洲. 広 いヨシ 原 と 干 潮 時 に 現 れる 広 大 な 干 潟. 上 流 から 流 れ 込 む 豊 富 な 栄 養 鹽 類 と 高 い 生 産 力. 川 の 水 と 海 水 が 混 ざった 汽 水 域 の 豊 富 な 種 の 多 樣 性. ユーラシア 大 陸 と 太 平 洋 をつなぐ 地 理 的 な 利 點 など 天 惠 の 自 然 條 件 を 備 えた 韓 國 最 高 の 自 然 生 態 系 2. 洛 東 江 河 口 の 鳥 (1) 象 徵 種 : ハクチョウ 類 (Swans), コアシサシ(Little tern), トビ(Black Kite) (2) 保 護 種 カラシラサギ(Swinhoe's Egret), コウノトリ(Oriental White Stork), クロツラへ ラサギ(Black-faced Spoonbill), へラサギ(White Spoonbill), オオワシ (Steller's Sea Eagle, オジロワシ(White-tailed Sea Eagle), ハヤブサ (Peregrine Falcon), へラシギ(Spoon-billed Sandpiper), カラフトアオアシシギ (Spotted Greenshank) 等 * 23 種 9,273 個 體 (2005) (3) 全 體 現 況 1 個 年 約 200 種 40 万 個 體 * 179 種 の408,537 個 體 (2005) * (2006) 3. 洛 東 江 河 口 の 保 護 法 保 護 區 域 名 面 積 (km2) 指 定 日 關 聯 部 署 文 化 財 保 護 區 域 文 化 觀 光 部 / 文 化 財 管 理 廳 ( 渡 り 鳥 渡 來 地 域 ) (9,560ha) 沿 岸 汚 染 特 別 管 理 區 域 環 境 部 ( 日 本 の 環 境 省 当 たる) 自 然 環 境 保 全 地 域 建 設 交 通 部 自 然 生 態 系 保 全 地 域 環 境 部 / 洛 東 江 流 域 環 境 廳 濕 地 保 護 地 域 環 境 部 / 洛 東 江 流 域 環 境 廳 II. 洛 東 江 河 口 の 濕 地 の 消 失 1. 完 了 した 事 業. 河 口 堰 建 設 (1987). 長 林 (チャンリム) 工 業 団 地, 新 戶 (シノ) 工 業 団 地, 菉 山 (ノクサン 工 業 団 地 ). 乙 淑 島 (ウルスクド)の1,2 次 ゴミ 埋 立 地. 鳴 旨 (ミョンジ) 住 居 團 地 の 建 設 J-9
11 . 新 戶 (シノ) 大 橋 の 建 設. 景 観 照 明 の 設 置 ( 龜 浦 [グポ] 大 橋, 河 口 堰 ). 麥 島 排 水 ポンプ 場 建 設. 乙 淑 島 の 自 動 車 劇 場 の 建 設. 乙 淑 島 文 化 會 館 の 建 設 2. 進 行 中 の 事 業. 新 港 灣 建 設. 乙 淑 島 を 貫 く 鳴 旨 (ミョンジ) 大 橋 建 設. 鳴 旨 住 宅 團 地 マンションの 建 設 事 業. 洛 東 江 の 河 川 敷 の 整 備 事 業. 西 洛 東 江 を 一 圓 する 堤 防 築 造 事 業. 新 戶 産 業 團 地 の 建 設 およびマンション 團 地 の 建 設. 花 田 産 業 團 地 の 建 設. ホンティ 地 域 の 埋 立 事 業. 屯 峙 島 の 開 發 事 業. 菉 山 産 業 團 地 産 業 廢 棄 物 埋 立 場 の 建 設. 菉 山 排 水 ポンプ 場 の 建 設. 沙 上 (ササン)~ 金 海 (キムヘ) 間 の 軽 電 鉄 の 建 設. 釜 山 鎭 海 經 濟 自 由 區 域 開 發 計 劃. 菉 山 の 干 潟 (14 万 km 2 ) 追 加 埋 立 計 劃. 河 口 周 邊 地 域 の 都 市 化 ( 蛾 眉 山 に 大 規 模 なマンション 團 地 の 建 設 など) 3. 推 進 中 の 事 業. 菉 山 (ノクサン) 干 潟 (14 万 m 2 )の 追 加 埋 立 計 劃. 鳴 旨 地 區 3 地 區 (5000m 2 )の 埋 立 計 劃. 訥 次 (ヌルチャ) 彎 埋 立 計 劃. 西 洛 東 江 整 備 計 劃. 嚴 弓 (ウムグン) 大 橋 の 建 設 計 劃. 沙 上 大 橋 建 設 計 劃. 三 樂 (サムナク) 大 橋 の 建 設 計 劃. 乙 淑 島 X-game 競 技 場 などの 建 設 計 劃. 加 德 島 (ガドクド)の 綜 合 開 發 の 計 劃. 輕 電 鐵 加 德 (カドク) 線 の 建 設 計 劃. 釜 山 (プサン) 鎭 海 (ジネ) 經 濟 自 由 区 域 の 開 發 計 劃. 西 洛 東 江 水 辺 文 化 タウン 造 成 事 業 ( 金 海 市 ). 麥 島 江 (メクトゥガン), 平 江 川 (ピョンガンチョン) 文 化 財 保 護 區 域 の 解 除. 眞 友 島 (ジヌド) 文 化 財 保 護 區 域 の 解 除. 多 大 浦 (ダデポ) 海 水 浴 場 の 人 造 氷 上 場 の 建 設 4. 緊 急 の 懸 案. 濕 地 保 護 地 域 擴 大 の 試 圖 および 釜 山 市 の 反 對. 釜 山 市 と 文 化 財 廳 による 文 化 財 保 護 區 域 の 縮 小 の 推 進 J-10
12 III. 洛 東 江 河 口 の 保 全 運 動 1. 洛 東 江 河 口 を 守 る 市 民 連 帶 の 保 全 運 動 2. 菉 山 の 干 潟 の 追 加 埋 立 計 劃 の 監 査 を 請 求 中 3. 文 化 財 保 護 區 域 の 縮 小 沮 止 運 動 4. 洛 東 江 河 口 をラムサール 濕 地 として 登 錄 するため ラムサール 会 議 のための 韓 國 のNGOのネットワーク 構 成 を 推 進 5. 其 他 の 保 存 活 動, 普 及 啓 発 活 動, 調 査 活 動 を 展 開 中 J-11
13 日 韓 NGO 湿 地 フォーラム 2007 花 輪 レジメ(10 月 12 日 パネルディスカッション) 日 本 の 湿 地 の 現 状 と 未 来 花 輪 伸 一 1900 年 頃, 東 京 湾 岸 には,136 km2の 干 潟 があった.しかし,1983 年 にはわずか 10 km2の 干 潟 が 残 るのみであった( 環 境 庁 1990). 特 に 1960 年 代 以 降 の 埋 立 が 大 規 模 であり, 総 面 積 も 大 きかった. 海 底 の 砂 を 浚 渫 して 埋 立 てたため, 埋 立 地 は 垂 直 護 岸 で 固 められ, 海 底 の 浚 渫 跡 地 には, 深 さ 30mに 達 する 巨 大 な 凹 地 が 多 数 残 されている.このような 大 規 模 公 共 事 業 が, 東 京 湾 の 干 潟 や 浅 海 域 を 消 滅 させてきた. 有 明 海 沿 岸 には, 広 大 な 干 潟 が 広 がり, 古 くから 干 拓 が 行 われ 農 地 が 造 られてきた. 干 拓 は 1960 年 代 以 降 大 規 模 になり, 諫 早 湾 干 拓 事 業 (1989 年 着 工 )では 3,550ha が 閉 め 切 られた.その 結 果, 有 明 海 全 体 の 潮 流 潮 汐 が 変 化 し, 赤 潮 や 貧 酸 素 水 の 発 生 頻 度 が 高 ま り, 漁 業 に 大 きな 悪 影 響 を 与 えている. 干 潟 は, 日 本 全 体 では,1945 年 から 2000 年 の 間 に 40%が 消 滅 し, 大 阪 湾, 東 京 湾, 瀬 戸 内 海 東 部, 伊 勢 湾 では 消 滅 割 合 が 高 く 50%を 超 えている( 花 輪 2006). 海 岸 線 は, 島 嶼 部 では 70%が 自 然 海 岸 であるのに 対 し, 本 土 では 45%と 少 なく 人 工 海 岸 の 比 率 が 38% と 高 くなっている. 河 川 および 湖 沼 の 水 際 線 は,それぞれ 27%,31%が 人 工 護 岸 である( 環 境 庁 1992,1997). 公 共 事 業 で 開 発 される 環 境 は, 河 川 が 35%, 海 浜 干 潟 が 24%であり, 湿 地 の 開 発 が 大 きな 割 合 を 占 めている(21 世 紀 環 境 委 員 会 1995). 河 川 ではダム 建 設 が 進 められ,1960 年 代 の 354 か 所 をピークとして,その 後 減 少 しているが, 計 画 された 巨 大 ダムについては, 反 対 運 動 にもかかわらず 計 画 や 建 設 が 進 んでいる. 近 代 日 本 の 湿 地 開 発 の 流 れは,おおざっぱに 見 ると 次 のようになる.1 賢 明 な 利 用 の 衰 退 ( 農 林 漁 業 から 工 業 へ),2 高 度 経 済 成 長 期 ( )の 乱 開 発,3 安 定 成 長 期 ( )とバブル 崩 壊 不 況,4 列 島 改 造 (1972-) 高 速 道 路, 新 幹 線,5 無 駄 な 公 共 事 業 ( 工 事 のための 工 事 ),6 公 共 事 業 の 一 部 見 直 し(1998) 集 中 化,7 無 駄 な 公 共 事 業 は 続 く.また,その 原 因 は,1 湿 地 の 役 割 価 値 への 無 関 心,2 中 央 も 地 方 も 開 発 志 向 が 強 い,3 産 業 政 策 の 転 換 ( 第 1 次 産 業 から 第 2,3 次 産 業 へ),4 湿 地 保 護 政 策 法 制 度 の 遅 れ,5 環 境 アセスメント 制 度 の 不 備,6 国 交 省, 農 水 省 など 開 発 官 庁 の 権 限 が 大 きい, 7 環 境 省 の 権 限 が 小 さい,ことなどがあげられる. このような 公 共 事 業 中 心 の 開 発 が, 湿 地 を 消 滅 させてきた. 湿 地 を 保 全 し 賢 明 な 利 用 を 実 現 するために, 次 のような 湿 地 保 護 の 原 則 を 政 策 として 実 現 する 必 要 がある.1 現 存 する 湿 地 は 保 全 し 賢 明 な 利 用 を 図 る.2 環 境 悪 化 した 湿 地 は 原 因 を 究 明 し 修 復 する.3 すでに 消 滅 した 湿 地 はできるだけ 復 元 する.4 流 域 全 体 の 視 点 で 湿 地 の 保 全 を 考 える.5 地 域 住 民, 利 害 関 係 者, 専 門 家 が 参 加 する.6 開 発 は, 計 画 アセス, 戦 略 アセスを 行 う. 花 輪 伸 一 (はなわしんいち):WWF ジャパン,hanawa@wwf.or.jp J-12
14 国 営 中 海 土 地 改 良 事 業 を 中 止 し ラムサール 登 録 湿 地 へ ~ 宍 道 湖 中 海 の 場 合 ~ 竹 下 幹 夫 (( 財 ) 宍 道 湖 中 海 汽 水 湖 研 究 所 ) 1. 事 業 の 経 過 と 市 民 の 動 き 国 営 中 海 干 拓 事 業 は 1963 年 農 林 水 産 省 によって 事 業 着 手 された この 事 業 では 中 海 に 5 カ 所 の 干 拓 地 (2500ha 中 海 の 約 25%)を 造 成 する 計 画 で 1992 年 までに 4 工 区 が 完 成 し た しかし 干 拓 堤 防 や 排 水 機 場 が 完 成 していた 最 大 の 本 庄 工 区 (1689ha)は 2000 年 に 中 止 をされた この 干 拓 事 業 に 併 せ 農 業 用 水 を 確 保 するため 中 海 宍 道 湖 を 淡 水 化 する 事 業 も 進 行 していたが 1988 年 に 凍 結 をされた 後,2002 年 に 中 止 された 現 在 は 淡 水 化 事 業 の 象 徴 であった 中 浦 水 門 の 撤 去 や 堤 防 の 一 部 開 削 といった 後 始 末 の 事 業 が 行 われ 2008 年 度 中 には 45 年 間 に 及 んだ 事 業 は 終 了 することになっている この 事 業 を 巡 っては 1981 年 以 降 地 元 での 反 対 運 動 が 活 発 に 展 開 されたことは 周 知 の 通 りである この 運 動 の 経 過 は 保 母 武 彦 の 公 共 事 業 をどう 変 えるか ( 岩 波 書 店 )に 詳 しく 述 べられている 年 月 経 緯 事 業 着 手 漁 業 補 償 交 渉 まとまる(65.4~ 開 始 ) 公 有 水 面 埋 立 の 承 認 本 格 工 事 始 まる 新 規 開 田 抑 制 通 知 が 出 される 中 浦 水 門 完 成 大 海 崎 堤 完 成 森 山 堤 完 成 9 月 中 浦 水 門 試 運 転 土 地 利 用 の 変 化 受 益 面 積 の 増 を 踏 まえた 変 更 計 画 確 定 (1971 年 から 干 拓 地 の 営 農 計 画 を 水 田 から 畑 作 等 に 変 更 し 協 議 を 始 める) 8 農 水 省 宍 道 湖 中 海 淡 水 化 に 伴 う 水 管 理 及 び 生 態 変 化 に 関 する 研 究 委 員 会 による 中 間 報 告 書 添 え 両 県 に 淡 水 化 の 試 行 の 同 意 を 求 める 1988 宍 道 湖 中 海 の 淡 水 化 試 行 及 び 本 庄 工 区 の 工 事 の 延 7 期 を 決 定 1989 弓 浜 工 区 (1969 年 着 工 ) 揖 屋 工 区 (1968 年 着 工 ) 安 4 来 工 区 (1968 年 着 工 ) 事 業 完 了 彦 名 工 区 (1971 年 着 工 ) 事 業 完 了 1994 島 根 県 本 庄 工 区 干 陸 化 に 伴 う 水 質 シミュレーション 10 を 結 果 を 公 表 島 根 県 知 事 本 庄 工 区 の 再 開 要 請 公 共 工 事 の 抜 本 的 見 直 しに 関 する 三 党 合 意 等 を 総 合 的 に 勘 案 し 本 庄 工 区 の 干 陸 中 止 を 決 定 宍 道 湖 中 海 の 淡 水 化 中 止 を 決 定 島 根 県 ラムサール 条 約 登 録 湿 地 を 目 指 すことを 表 明 ( 江 島 大 橋 開 通 国 土 交 通 省 施 工 ) 本 庄 工 区 の 干 陸 中 止 及 び 宍 道 湖 中 海 の 淡 水 化 中 止 を 踏 まえた 変 更 計 画 等 確 定 11 宍 道 湖 中 海 ラムサール 条 約 登 録 湿 地 となる 中 浦 水 門 撤 去 工 事 開 始 森 山 堤 の 一 部 開 削 工 事 開 始 第 1 期 の 市 民 運 動 第 2 期 の 市 民 運 動 第 3 期 の 市 民 運 動 J-13
15 2. 事 業 と 漁 業 この 事 業 に 伴 い 両 湖 の 漁 業 も 多 大 な 影 響 を 受 けた 特 に 干 拓 事 業 により 影 響 を 受 ける のは 底 生 の 生 物 であるが この 間 の 宍 道 湖 (ヤマトシジミ) 中 海 漁 獲 量 (サルボウ 貝 類 )は 下 図 のとおりである 中 海 の 漁 業 は 干 拓 事 業 の 影 響 をもろに 受 け 漁 業 壊 滅 的 な 状 況 となってしまった 一 方 宍 道 湖 は 国 内 他 産 地 が 開 発 の 影 響 を 受 ける 中 で 徹 底 した 管 理 型 漁 業 を 展 開 して 漁 獲 量 を 今 日 まで 維 持 している 中 海 干 拓 反 対 の 運 動 を 中 心 で 支 え た 一 つが 宍 道 湖 の 漁 師 であったことは 象 徴 的 なことである これこそまさに 持 続 性 を 持 った 漁 業 が 湿 地 の 保 全 を 勝 ち 取 ったと 言 っても 過 言 ではない 宍 道 湖 20,000 15,000 10,000 5,000 0 宍 道 湖 と 中 海 の 貝 類 の 漁 獲 量 の 経 年 変 化 中 海 2,000 1,500 1, ヤマトシジミ サルボウ 貝 類 3. 地 域 に 基 盤 をおいた 地 道 な 市 民 の 活 動 で 開 発 から 湿 地 を 守 るために 中 海 で ほぼ 90% 完 成 していた 公 共 事 業 を 中 止 にまで 追 い 込 むことが 出 来 たのはどのよ うな 理 由 によるのか 限 られた 中 で 書 き 表 せないが 以 下 の 通 りと 思 う 第 1は 地 域 の 多 数 者 になること 市 民 ニーズの 最 大 公 約 数 を 探 すこと 第 2に 自 立 した 運 動 であること 政 党 や 労 働 組 合 と 運 動 の 間 合 いの 取 り 方 第 3は 科 学 の 力 を 十 分 生 かすこと 主 張 に 説 得 力 を 持 たせるためには 科 学 的 な 根 拠 が 必 要 である 第 4に 市 民 がどのように 情 報 を 発 信 するのか マスコミとの 関 係 第 5に 地 元 の 自 治 体 を 変 えること 国 の 事 業 であっても 地 方 が 政 策 を 変 えれば 国 も 変 わる 4.ラムサール 登 録 湿 地 を 支 える 法 的 基 盤 の 整 備 今 後 ラムサール 登 録 湿 地 が 良 好 なまま 維 持 されていくためにも また 新 たに 開 発 に さらされている 湿 地 を 保 全 していくためには 現 行 の 国 内 法 による 担 保 力 ( 鳥 獣 保 護 法 に よる 特 別 保 護 地 区 が 中 心 )については 疑 問 がある それぞれの 湿 地 の 特 性 を 生 かした 賢 明 な 利 用 原 則 (ラムサール 条 約 のいう 湿 地 利 用 の 原 則 )を 柱 とする 湿 地 保 全 法 が 必 要 となってくるのではないか J-14
16 泡 瀬 干 潟 埋 立 の 現 状 問 題 点 前 川 盛 治 泡 瀬 干 潟 を 守 る 連 絡 会 泡 瀬 干 潟 海 域 埋 立 事 業 は 沖 縄 県 中 部 にある 沖 縄 市 の 東 にひろがる 干 潟 海 域 187ha を 埋 立 てる 事 業 下 図 ( 事 業 者 資 料 環 境 監 視 委 員 会 配 布 )の 赤 い 線 で 囲 まれた 部 分 下 が 第 一 期 工 事 (96ha) 上 が 第 二 期 工 事 (91ha) 現 在 第 一 期 工 事 が 進 行 している 北 側 に 米 軍 泡 瀬 通 信 施 設 がある うすい 紫 色 はこれま で 終 わった 部 分 黄 色 は 平 成 19(07) 年 度 工 事 部 分 ( 護 岸 工 事 と 航 路 浚 渫 ) 次 年 度 以 降 図 の 上 にあ る 新 港 地 区 ( 沖 縄 マリーナの 右 上 泡 瀬 埋 立 地 から 約 4km 離 れている)の 港 航 路 の 浚 渫 土 砂 がホ ンフ 浚 渫 ハ イフ 輸 送 で 運 ばれ 埋 立 てられる( 図 の 赤 い 矢 印 が 運 搬 ルートを 示 す ) サンコ 産 卵 地 この 埋 立 は 沖 縄 市 の 強 い 要 請 で 国 ( 総 合 事 務 局 ) 沖 縄 県 の 事 業 として 埋 立 てられ 完 了 後 国 か ら 沖 縄 県 が 購 入 し そのうち 約 半 分 90ha を 沖 縄 市 が 買 取 り 海 洋 リゾート 地 造 りに 活 用 される 予 定 事 業 の 目 的 は 二 つ 一 つは 新 港 地 区 の 港 航 路 の 浚 渫 土 砂 処 分 場 を 造 る 事 ( 国 の 目 的 ) 二 つは 埋 立 地 を 活 用 して 海 洋 リゾート 地 を 造 る 事 ( 沖 縄 市 県 の 目 的 ) 問 題 点 1. 二 つの 目 的 は 崩 壊 し 埋 立 の 合 理 性 緊 急 性 がない 新 港 地 区 FTZ 構 想 の 失 敗 破 綻 海 洋 リゾート 地 造 りの 実 現 性 がない 市 民 県 民 に 大 きな 負 担 を 押 し 付 ける 新 港 地 区 の 埋 立 は 港 航 路 の 浚 渫 土 砂 で 埋 められることになっていた 2.アセスが 杜 撰 である (クヒ レミト ロ 移 植 海 草 移 植 トカケ ハセ 保 全 貝 類 鳥 類 サンコ 等 生 息 する 種 の 調 査 極 めて 不 十 分 ) 3. 埋 立 着 工 後 も 新 種 貴 重 種 絶 滅 危 惧 種 が 数 多 く 発 見 されている それらの 保 全 がなされていない 新 種 約 9 種 絶 滅 危 惧 種 121 種 ( 貝 類 108 種 甲 殻 類 7 種 魚 類 6 種 ) 4. 無 駄 な 公 共 事 業 の 典 型 であり 世 界 に 誇 る 干 潟 海 域 ラムサール 条 約 登 録 湿 地 の 条 件 を 満 たす 干 潟 海 域 が 失 われる 5. 市 民 合 意 がなされていない ( 様 々なアンケート 結 果 は 埋 立 反 対 が 過 半 数 を 越 えている ) 6. 国 内 外 から 埋 立 中 止 要 請 がある(ラムサール 条 約 事 務 局 長 オーストラリア 環 境 遺 産 大 臣 日 弁 連 など) 7. 埋 立 を 強 く 要 請 した 沖 縄 市 の 事 情 が 大 きく 変 わった 06 年 4 月 の 市 長 選 で 埋 立 積 極 推 進 の 候 補 者 が 破 れ 情 報 公 開 市 民 の 意 見 を 聞 いて 進 める J-15
17 と 公 約 した 東 門 市 長 が 誕 生 した 事 業 着 工 後 発 見 された 新 種 貴 重 種 絶 滅 危 惧 種 ( 代 表 例 4 種 ) ホソウミヒルモ( 海 草 ) ユンタクシシ ミ(スシ ホシムシと 共 生 ) サ ンノナミタ ( 生 息 環 境 と 貝 約 7mm) ヒメメナカ オサカ ニ( 新 聞 記 事 ) 海 上 埋 立 工 事 現 場 上 空 からの 写 真 ( 左 )とヒメマツミト リイシの 産 卵 ( 右 ) 07 年 3 月 22 日 小 橋 川 共 男 撮 影 赤 い 円 は 埋 立 区 域 黄 色 の 円 はサ ンノナミタ ニライカナイコ ウナ 等 生 息 地 青 い 円 はクヒ レミト ロ( 絶 滅 危 惧 ⅠA 類 ) 生 息 地 A はスキ ノキミト リイシ ホソウミヒルモ ヒメメナカ オサカ ニ 等 生 息 地 F は 人 工 ヒ ーチ 護 岸 G は 陸 からの 仮 設 橋 梁 先 の 護 岸 E は 航 路 浚 渫 場 所 アセス 書 に 記 載 されていなかったヒメマツミト リイシ( 枝 サンコ )の 群 生 地 とそこで 初 めて 確 認 されたサンコ 産 卵 ( 放 卵 ) この 場 所 は 左 の 写 真 の 右 端 の 砂 州 のすぐ 近 く ここも 航 路 のため 浚 渫 される 最 初 の 全 体 図 の サンコ 産 卵 地 の 場 所 07 年 6 月 8 日 沖 縄 リーフチェック 研 究 会 安 部 J-16
18 テーマ 1 公 共 事 業 による 湿 地 破 壊 の 両 国 の 問 題 点 とその 克 服 の 方 向 釧 路 湿 原 国 立 公 園 20 年 目 の 真 実 釧 路 湿 原 破 壊 の 現 状 と 自 然 再 生 事 業 の 問 題 点 杉 沢 拓 男 NPO 法 人 トラストサルン 釧 路 釧 路 湿 原 国 立 公 園 発 足 してから 今 年 で 20 年 目 を 迎 えました 国 立 公 園 化 とラムサール 条 約 会 議 の 開 催 で 釧 路 湿 原 地 域 では 湿 地 に 対 する 見 方 や 意 識 が 開 発 一 辺 倒 から 保 護 に 向 け 変 わったとさ れています しかし 見 方 と 意 識 が 変 わったはずの 20 年 間 釧 路 湿 原 の 現 状 を 保 護 と 破 壊 で 振 り 返 るなら 釧 路 湿 原 の 破 壊 と 荒 廃 がさらに 進 み 深 刻 になっている 姿 が 見 えてきます 釧 路 湿 原 で 残 存 している 湿 原 は 約 22,660 ヘクタール( 平 成 12 年 国 土 地 理 院 )の 面 積 とされています 国 立 公 園 化 された 湿 原 といえば 約 18,000 ヘクタール 差 し 引 き 約 4,650 ヘクタールの 湿 原 が 保 護 されず 今 も 開 発 が 続 いています 開 発 が 続 く 地 域 の 湿 原 には 国 内 で 釧 路 湿 原 にのみ 生 息 が 確 認 されているキタサン ショウウオの 主 要 な 生 息 湿 原 があり タンチョウの 営 巣 地 も 数 十 箇 所 オジロワシの 営 巣 木 もあ る 湿 原 が 含 まれています この 20 年 釧 路 湿 原 を 巡 る 自 然 の 破 壊 は1 国 立 公 園 地 域 から 除 外 された 湿 原 内 の 高 速 道 路 など の 道 路 建 設 宅 地 資 材 置 き 場 の 開 発 などによる 湿 地 破 壊 2 農 地 開 発 したものの 排 水 不 良 で 湿 地 に 戻 った 農 地 の 再 開 発 による 破 壊 ( 農 地 防 災 事 業 )3 釧 路 湿 原 流 域 で 続 く 自 然 林 の 皆 伐 等 による 水 源 地 の 森 林 破 壊 による 土 砂 流 入 4 国 立 公 園 化 のなかで 進 められてきた 利 用 という 名 目 の 観 光 開 発 による 破 壊 などに 大 別 できます ( 図 写 真 参 考 ) 20 年 の 間 湿 原 保 護 の 声 をあざ 笑 うかのように 湿 地 と 流 域 の 開 発 が 進 められました 国 立 公 園 地 域 と 非 公 園 地 域 のライン 上 の 湿 原 内 を 東 西 に 約 20 キロもの 長 さで 横 断 する 広 域 農 道 ( 通 称 湿 原 道 路 )が 建 設 され さらに 今 釧 路 湿 原 を 表 徴 するタンチョウ オジロワシ キタサンショウウオ 等 の 生 息 湿 原 を 埋 め 立 てる 高 速 道 路 工 事 が 進 められています 高 速 道 路 工 事 はオジロワシの 営 巣 木 の 真 下 に 至 っています 湿 原 内 に 道 路 が 生 まれた 結 果 産 業 廃 棄 物 の 処 理 場 などの 開 発 行 為 やゴ ミの 不 法 投 棄 などが 誘 導 され 破 壊 を 進 めています 表 土 を 重 機 で 剥 ぎ 立 木 を 搬 出 する 作 業 道 作 りを 伴 う 丘 陵 地 帯 の 森 林 伐 採 は 大 量 の 土 砂 を 湿 原 に 排 出 します 保 水 力 を 失 った 流 域 では 農 地 などを 河 川 の 氾 濫 から 護 るため 河 川 改 修 工 事 や 農 地 防 災 事 業 という 新 たな 公 共 土 木 事 業 を 作 り 湿 原 の 乾 燥 化 を 加 速 させる 役 割 を 果 たしながら 綿 々と 続 けられています 釧 路 湿 原 では 4 年 前 から 自 然 再 生 推 進 法 に 基 づく 自 然 再 生 事 業 が 開 始 されました 土 砂 の 流 入 を 抑 制 し 湿 原 の 乾 燥 化 を 止 める ことが 事 業 の 大 義 名 分 のようになっています しかし どの 事 業 も 農 地 開 発 森 林 開 発 など 湿 原 破 壊 の 原 因 行 為 に 迫 る 具 体 的 な 事 業 はなく 自 ら 進 めた 開 発 事 業 の 直 線 化 した 河 川 を 再 蛇 行 させる 上 流 の 公 共 事 業 で 発 生 した 土 砂 を 下 流 域 で 受 け 止 める 沈 砂 地 作 り など 壊 して 直 す マッチポンプ 的 な 事 業 と 言 えるものばかりです 釧 路 湿 原 自 然 再 生 事 業 では 自 然 再 生 法 に 基 づき 自 然 再 生 協 議 会 ( 希 望 者 は 誰 でも 参 加 できる 構 成 員 は 100 人 超 官 業 研 が 多 数 )が 組 織 され 事 業 の 具 体 的 方 向 を 示 す 釧 路 湿 原 自 然 再 生 全 体 構 想 ( 以 下 全 体 構 想 )が 作 られました 全 体 構 想 ではラムサール 条 約 の 決 議 湿 地 再 生 の 原 則 とガイドライン に 示 されている 文 言 も 取 り 入 れられ 自 然 再 生 を 実 施 する 原 則 として 10 項 目 を 示 しました 生 態 系 のつながりのある 流 域 全 体 を 対 象 に 考 える( 流 域 視 点 の 原 則 ) 残 された 自 然 の 保 全 を 優 先 する( 受 動 的 再 生 の 原 則 ) 順 応 的 管 理 多 様 な 主 体 の 参 加 などです しかし 流 域 の 範 囲 を 設 定 する 議 論 では 釧 路 湿 原 を 成 立 させている 釧 路 川 水 系 と 阿 寒 川 水 系 の 二 本 の 流 域 河 川 ( 阿 寒 川 は 大 正 年 間 まで 釧 路 川 の 支 流 だった)の 中 で 阿 寒 川 水 系 とその 流 域 の 湿 原 を 除 外 するという 提 案 が 一 部 の 学 者 研 究 者 から 示 され 自 然 再 生 の 範 囲 は 主 として 釧 路 川 水 系 だ けとする 非 科 学 的 な 範 囲 設 定 が 行 われました 流 域 全 体 を 対 象 とする 自 然 再 生 の 原 則 はその 開 始 から 歪 曲 されました 阿 寒 川 流 域 一 帯 の 湿 原 は 国 立 公 園 から 除 外 され 開 発 が 進 んでいる 残 さ れた 釧 路 湿 原 の 大 部 分 を 占 め 高 速 道 路 の 建 設 が 進 められている 湿 原 域 になっています J-17
19 全 体 構 想 の 受 動 的 再 生 の 原 則 で 残 された 自 然 の 保 全 を 優 先 することを 強 調 しなが ら タンチョウやオジロワシが 営 巣 する 湿 原 地 域 の 保 全 を 優 先 する ことなく 開 発 行 為 と 土 木 事 業 を 優 先 した 自 然 再 生 事 業 が 釧 路 湿 原 で 始 まっていることになります ラムサール 条 約 の 決 議 湿 地 再 生 の 原 則 とガイドライン などに 沿 って 釧 路 湿 原 自 然 再 生 事 業 の 厳 格 な 検 証 と 見 直 しが 必 要 になっています 000 皆 伐 後 25 年 放 置 され 市 民 団 体 が 土 地 を 取 得 し 自 然 再 生 を 始 めた 釧 路 湿 原 中 央 部 を 囲 む 丘 陵 釧 路 湿 原 図 橙 色 の 点 線 が 国 立 公 園 地 域 黄 色 がラムサール 登 録 地 釧 路 湿 原 の 水 源 地 域 丘 陵 の 自 然 林 皆 伐 現 場 (2005 年 7 月 ) 細 岡 展 望 台 裏 の 丘 オジロワシ 営 巣 木 の 下 付 近 まで 侵 入 した 高 速 道 路 建 設 関 係 車 両 (2007 年 1 月 ) 釧 路 湿 原 南 部 国 立 公 園 除 外 湿 原 の 一 角 J-18
20 地 域 共 同 体 に 基 盤 を 置 くマドン 湖 の 保 全 活 動 キム ドクソン ( 金 徳 成 ) ( 環 境 と 生 命 を 守 る 全 国 教 師 の 会 会 長 ) 1.マドン 地 区 農 村 用 水 開 発 事 業 韓 国 南 海 岸 慶 尚 南 道 (キョンサンナムド)マサン 市 の 南 西 約 20kmのタンハン 裏 (ポ)に 位 置 した 馬 岩 面 ボジョン 里 とドンヘ 面 ネゴン 里 の 間 に 総 延 長 843m の 防 潮 堤 を 築 いて 面 積 408ha の 淡 水 湖 を 造 成 天 水 田 に 農 業 用 水 を 安 定 的 に 供 給 恒 久 的 な 通 年 対 策 を 確 立 することが 目 的 2002 年 12 月 に 工 事 開 始 2005 年 8 月 マドン 地 区 民 営 関 連 開 発 事 業 施 行 を 留 保 2007 年 4 月 に 工 事 再 開 したが 慶 尚 南 道 と 農 林 部 の 事 業 留 保 計 画 により 腰 砕 けの 状 態 ( 現 在 工 程 の 約 38%) 2. 予 定 地 一 帯 の 生 態 系 の 現 況 と 特 性 ここは 山 地 で 囲 まれたタンハン 湾 地 域 はトンジン 橋 付 近 の 狭 い 水 路 を 通 じてチンドン 湾 と 連 結 した 水 深 が 浅 く 閉 鎖 性 が 強 い 海 域 である この 地 域 の 多 様 な 生 態 広 いコソン( 固 城 )の 野 原 広 いヨシ 原 恐 竜 の 足 跡 化 石 のある 所 黄 色 いハナショウブなど 水 生 植 物 の 群 落 地 シジミ 採 り 農 耕 地 とドルメン 小 さ な 小 川 そして 多 様 なコソンの 民 俗 文 化 コソン 五 広 大 コソン 農 謡 マドン 湖 予 定 地 周 辺 の 地 層 構 造 を ひと 目 で 見 られる 美 しい 堆 積 岩 など 人 文 環 境 と 自 然 環 境 が 共 存 する 生 物 多 様 性 維 持 に 必 須 の 湿 地 であ る 国 際 的 絶 滅 危 惧 種 とされ 保 護 鳥 であるクロツラヘラサギの 数 少 ない 中 継 地 として 知 られるなど この 地 域 の 重 要 さは 次 第 に 高 まっている 淡 水 と 海 水 が 出 会 う 汽 水 域 として 広 いヨシ 原 と 干 潟 が 分 布 している このような 地 域 は 沿 岸 生 態 系 の 均 衡 を 維 持 するための 非 常 に 重 要 な 地 域 である 国 際 的 絶 滅 危 惧 種 であるクロツラヘラサギが 毎 年 訪 れる 中 継 地 ガン 類 セイタカシギ ツクシガモ カワアイサ カモ 類 シギ チドリ 類 など 水 鳥 たちの 渡 り 経 路 の 重 要 な 中 継 地 および 越 冬 地 スズガモの 90%が 事 業 予 定 地 に 到 来 滞 留 する 地 域 ダイサギ コサギなどサギ 類 の 集 団 中 継 地 及 び 生 息 地 汽 水 域 生 態 系 が 生 きている 重 要 な 沿 岸 生 態 系 3. 持 続 的 な 調 査 活 動 と 教 育 活 動 地 域 別 周 期 的 なモニタリングの 調 査 生 態 教 育 プログラム 及 び 資 料 開 発 環 境 と 生 命 を 守 るキョンナム( 慶 尚 南 道 ) 教 師 の 会 の 活 動 小 中 高 校 公 務 員 地 域 住 民 と 一 緒 にする 普 及 啓 発 プログラムの 運 営 (2000 年 ~2007 年 ) 4. 賢 明 な 利 用 方 案 スズガモの 場 合 半 潜 水 ガモに 属 するので 淡 水 時 水 位 上 昇 で 渡 来 地 としての 機 能 を 失 い 大 規 模 な 淡 水 湖 造 成 後 ガン カモ 類 の 大 規 模 移 動 滞 留 により 近 隣 農 耕 地 1 400ha が 大 きな 被 害 をこうむることが 予 想 され 冬 鳥 との 敵 対 的 関 係 が 形 成 地 域 農 民 の 請 願 が 出 る 素 地 が 大 きい 太 陽 熱 エネルギーを 利 用 した 遊 覧 船 運 航 地 域 固 有 の 伝 統 意 識 と 自 然 に 対 する 理 解 鼓 吹 生 態 館 お よび 体 験 場 の 設 置 J-19
21 仁 川 干 潟 の 埋 め 立 てと 干 拓 の 実 態 金 大 煥 (キム デファン) 韓 国 野 生 鳥 類 協 会 副 会 長 仁 川 民 間 湿 地 委 員 会 仁 川 緑 色 連 合 韓 国 の 干 潟 の 干 拓 は 高 麗 時 代 から 行 われていたとの 記 録 があり その 目 的 は 食 糧 確 保 のための 農 耕 地 の 造 成 であった 我 が 国 の 全 体 を 見 渡 した 時 60 年 代 以 前 までの 干 拓 事 業 は 多 いのだが 規 模 の 面 では 小 規 模 に 行 われて 来 た その 後 干 拓 事 業 の 数 は 減 ったがセマングム 干 拓 事 業 のほか 多 くの 大 規 模 干 拓 事 業 が 進 められ 数 多 くの 干 潟 が 破 壊 され 始 めた 仁 川 (インチョン) 沿 岸 はリアス 式 海 岸 線 を 持 った 典 型 的 な 海 岸 性 平 原 河 口 域 であり 大 小 150 余 りの 島 々が 散 在 している この 島 々の 周 りには 潮 汐 干 満 の 差 によって 潮 間 帯 が 大 規 模 に 発 達 し ており 陸 地 と 海 洋 から 流 入 する 微 細 粒 質 の 堆 積 物 が 均 等 に 堆 積 されて 広 大 な 干 潟 が 形 成 され 多 様 な 海 洋 生 物 たちが 豊 かなえさを 求 めてここにやって 来 た しかし 開 港 以 降 の 都 会 化 と 1970 年 代 以 降 の 首 都 圏 の 人 口 増 加 及 び 京 仁 (ソウルとインチョ ン) 地 域 の 工 業 化 新 空 港 建 設 ごみ 埋 め 立 て 地 東 亜 埋 め 立 て 地 南 東 工 団 及 び 松 島 (ソンド) 新 都 市 造 成 などの 大 規 模 干 拓 開 発 事 業 によって 106km 2 位 が 既 に 埋 め 立 てられ または 埋 め 立 て 進 行 中 であり 新 都 市 拡 張 宅 地 造 成 などで km 2 程 がさらに 埋 め 立 てられる 予 定 であ る 特 に 1992 年 以 後 仁 川 新 空 港 建 設 によって 竜 遊 島 との 間 にあった 干 潟 km 2 が 消 失 し た 金 浦 干 潟 は 首 都 圏 のごみ 埋 め 立 てと 農 地 利 用 の 目 的 で 埋 め 立 てられ 典 型 的 な 砂 干 潟 で 韓 国 でシオフキ アサリ オキシジミなどの 生 産 が 最 も 多 かった 松 島 干 潟 は 新 都 市 埋 立 工 事 ( 経 済 自 由 区 域 )によって 塩 田 であった 南 東 干 潟 は 工 業 団 地 用 地 などとして 大 部 分 が 干 拓 され 仁 川 の 主 要 干 潟 が 殆 どがなくなった 2007 年 現 在 島 を 除 いてただ 一 つ 残 った 仁 川 の 干 潟 は 松 島 経 済 自 由 区 域 11 工 区 でその 面 積 は km 2 である しかしここさえも 2009 年 初 着 工 2015 年 末 竣 工 の 予 定 である 韓 国 野 生 鳥 類 協 会 (KWBS)の 調 査 の 結 果 最 近 5 年 間 に 松 島 及 び 近 隣 地 域 で 観 察 された 鳥 類 の 種 数 は 160 種 余 りであった 春 季 と 秋 季 には 数 多 くのシギ チドリ 類 が 渡 来 しており 冬 季 にも 数 多 くのカモ 類 が 渡 来 するという 状 況 である しかし 干 潟 がますます 埋 め 立 てられている 状 況 で その 個 体 数 は 徐 々に 減 っているのが 実 情 である 仁 川 の 環 境 関 連 団 体 が 連 合 して 構 成 する 民 間 仁 川 湿 地 委 員 会 では 仁 川 に 最 後 に 残 った 干 潟 であ る 松 島 11 工 区 を 守 る 努 力 をしている 毎 月 学 生 たちと 一 緒 に 実 施 している 鳥 類 調 査 ズグロカモ メ 繁 殖 地 保 護 活 動 鳥 類 写 真 展 示 会 及 び 広 報 活 動 アンケート 調 査 各 種 セミナーに 参 加 して 松 島 干 潟 の 大 切 さを 発 表 している J-20
22 浅 水 (チョンス) 湾 干 拓 事 業 イ ピョンジュ 1 浅 水 湾 の 一 般 事 項 浅 水 (チョンス) 湾 は 韓 国 中 部 忠 清 南 道 の 西 北 端 から 黄 海 の 方 で 突 き 出 た 泰 安 (テアン) 半 島 と 安 眠 (アンミョン) 島 で 取 り 囲 まれた 閉 鎖 性 海 域 で 水 域 面 積 は 1970 年 代 末 まで 約 375 km 2 であ ったが 現 在 の 水 域 面 積 は 約 250 km 2 である また 浅 水 湾 は 北 側 が 陸 地 部 に 湾 入 して 南 北 に 長 く 現 在 湾 の 海 岸 線 の 総 延 長 は 約 200km 程 度 で ある この 浅 水 湾 は 水 深 が 浅 く 堆 積 相 によって 泥 干 潟 펄갯벌 および 泥 펄と 砂 の 混 合 干 潟 で 成 り 立 っ ているし 栄 養 塩 類 とプランクトンが 豊 かで 多 くの 種 類 の 魚 類 甲 殻 類 及 び 軟 体 動 物 の 産 卵 場 及 び 保 育 場 としての 役 目 を 果 たしていた したがってここは 地 域 漁 民 たちにとって ノリや アサリ カキ 養 殖 などさまざまな 漁 業 活 動 を する 生 計 の 基 盤 でもあった 2 浅 水 湾 干 拓 事 業 1) 浅 水 湾 干 拓 事 業 の 背 景 この 浅 水 湾 はかめを 伏 せて 置 いたような 形 をしており 入 口 が 狭 く 以 前 にも 干 拓 の 試 みがあ ったが 現 代 建 設 によって 本 格 的 な 干 拓 が 始 まったのは 1979 年 からである 当 時 中 東 の 開 発 ブームが 終 わり 装 備 と 人 力 を 撤 収 したあとの 活 用 方 案 に 悩 んだ 現 代 建 設 と 米 の 自 給 自 足 を 願 う 政 府 の 間 の 利 害 と 打 算 がかみ 合 って 大 規 模 干 拓 事 業 が 成 立 したわけである 2) 干 拓 事 業 内 容 浅 水 湾 干 拓 地 は 瑞 山 (ソサン)A B 地 区 という 日 帝 時 代 の 呼 び 名 を 持 った 地 区 にそれぞれ 1982 年 と 1984 年 に 最 終 の 潮 止 め 工 事 を 行 って 作 られ 全 体 面 積 が 約 15,400ha 程 度 である このうち 干 拓 農 地 が 約 10,100ha(A 地 区 :6,400ha / B 地 区 :3,700ha)であり 二 つの 淡 水 湖 は 約 4,000ha 程 度 である 3) 干 拓 事 業 による 影 響 このような 大 規 模 干 拓 事 業 によって 浅 水 湾 では 広 大 な 底 生 生 物 の 生 息 地 が 減 少 したことは 当 然 で あるが 海 流 の 流 速 と 方 向 が 変 わって 生 態 系 が 変 わり 海 水 汚 染 も 深 刻 になっている これによってノリ 養 殖 場 は 影 をひそめ 魚 類 資 源 も 減 少 して 地 域 社 会 全 般 にこの 上 なく 大 きな 影 響 を 及 ぼした 4) 干 拓 地 の 営 農 による 諸 変 化 しかし 浅 水 湾 干 拓 地 に 大 規 模 機 械 化 農 業 が 始 まって 以 来 営 農 による 落 穂 と 淡 水 湖 の 生 物 たちを えさにする 約 310 種 類 の 鳥 たちが 観 察 されるなど 浅 水 湾 干 拓 地 は 主 な 渡 り 鳥 渡 来 地 としての 位 置 を 占 めることにもなった これによって 瑞 山 泰 安 (ソサン テアン) 環 境 連 合 などではさまざまな 渡 り 鳥 渡 来 地 保 全 活 動 を 展 開 してもいる 3 新 しい 干 拓 農 地 開 発 事 業 しかし 渡 り 鳥 渡 来 地 である 浅 水 湾 干 拓 地 B 地 区 農 地 約 3,700ha のうち 政 府 の 許 可 に 基 づいて 約 1,475ha に 現 代 建 設 が 108 ホールのゴルフ 場 と 100 階 の 高 さのビルなど 大 規 模 レジャー 宿 泊 施 設 を 推 進 しており 渡 り 鳥 渡 来 地 には 新 しい 危 機 が 訪 れている J-21
23 伝 統 的 農 漁 業 によって 実 現 していた 湿 地 の 賢 明 な 利 用 とその 喪 失 浅 野 正 富 第 1 東 アジアの 伝 統 的 農 漁 業 と 湿 地 の 賢 明 な 利 用 1 東 アジアの 沿 岸 域 には かつて 広 大 な 干 潟 が 存 在 した 干 潟 生 態 系 は 多 種 多 様 な 生 物 の 宝 庫 であり 生 産 性 も 高 く 漁 業 資 源 として 重 要 なばかりか 極 めて 大 きな 水 質 浄 化 機 能 を 有 していた かつての 干 潟 とともにあった 人 々の 暮 らしは 干 潟 の 恵 みに 育 まれた 持 続 可 能 な 沿 岸 漁 業 を 中 心 とする 生 活 であり 日 本 の 諫 早 干 潟 韓 国 のセマ ングム 干 潟 が 干 拓 事 業 で 破 壊 されるまで そこには この 伝 統 的 な 湿 地 の 賢 明 な 利 用 が 実 践 されていたのである 2 約 50 年 前 まで 東 アジアで 行 われていた 伝 統 的 な 水 田 稲 作 は 温 帯 モンスーンの 気 候 を 利 用 した 循 環 型 の 有 機 農 法 であり 稲 作 によって 形 成 される 水 田 生 態 系 は 多 種 多 様 な 生 物 と 共 存 していた 国 民 の 多 くが 農 業 特 に 水 田 稲 作 に 従 事 していた50 年 前 までは 水 田 という 湿 地 の 賢 明 な 利 用 は 東 アジア 各 国 の 多 くの 国 民 にとっては 何 ら 特 別 なことではなく 祖 先 たちから 受 け 継 いできた 当 たり 前 の 生 活 そのものであっ たのである 第 2 この 半 世 紀 の 間 の 賢 明 な 利 用 の 喪 失 1 干 潟 は 農 業 用 地 市 街 地 工 業 用 地 等 の 開 発 適 地 として 次 々と 埋 め 立 てられ 日 本 では 1945 年 以 前 は 全 国 に 存 在 していた82,621haの 干 潟 が1979 年 には53,856haと 約 35%も 消 滅 してしまった 韓 国 の 干 潟 の 面 積 は 約 25 5,000haで 国 土 の2.5%に 相 当 するが これまで 埋 め 立 てにより 約 81,000 haが 消 失 している 2 伝 統 的 農 業 もこの 約 50 年 の 間 に 機 械 化 された 農 薬 と 化 学 肥 料 を 大 量 に 使 用 する 近 代 農 業 に 置 き 換 わり 水 路 はコンクリート 三 面 張 りとなって 土 地 改 良 された 水 田 には 排 水 施 設 が 完 備 されて 乾 田 化 され 生 物 の 住 めない 環 境 に 改 変 されていった 今 では メダカやタガメなど かつて 水 田 やその 周 辺 に 当 たり 前 に 生 息 していた 生 物 が 絶 滅 危 惧 種 となっている 第 3 東 アジアでの 湿 地 の 賢 明 な 利 用 の 再 構 築 を 1 伝 統 的 農 漁 業 が 営 まれ 賢 明 に 利 用 されてきた 東 アジアの 干 潟 や 水 田 が 持 続 不 可 能 な 利 用 の 場 に 変 貌 している 中 で どのように 再 び 湿 地 の 賢 明 な 利 用 を 再 構 築 していく べきなのか 2 干 潟 のこれ 以 上 の 破 壊 を 止 め 干 潟 再 生 を 図 る 試 みが 先 ず 諫 早 セマングムから 始 められていく 必 要 があるだろう また ふゆみずたんぼをはじめ 生 物 多 様 性 を 高 めることによって 害 虫 防 除 を 図 る 環 境 創 造 型 有 機 稲 作 が 東 アジアの 水 田 で 広 く 展 開 さ れていく 必 要 があるだろう 3 私 たちは 半 世 紀 前 までの 東 アジアで 実 践 されていた 干 潟 や 水 田 での 湿 地 の 賢 明 な 利 用 をひとつの 理 想 としながら 現 代 の 東 アジアで 湿 地 の 賢 明 な 利 用 を 再 構 築 する 方 法 論 を 確 実 に 獲 得 していかなければならない J-22
24 日 韓 NGO 湿 地 フォーラム 講 演 要 旨 生 物 多 様 性 を 利 用 した 稲 作 ふゆみずたんぼ の 挑 戦 蕪 栗 沼 から 全 国 へ その1; 水 鳥 との 共 生 を 可 能 とするふゆみずたんぼ 日 本 雁 を 保 護 する 会 JAWAN 呉 地 正 行 要 約 蕪 栗 沼 は 天 然 記 念 物 マガンの 国 内 最 大 級 の 越 冬 地 で 生 物 多 様 性 が 高 い 湖 沼 である 2005 年 11 月 には 地 域 合 意 に 基 づき 沼 だけでなく 周 辺 水 田 を 広 く 含 む 世 界 で 初 めてのラムサ ール 条 約 湿 地 となり ガン 類 と 共 生 した 水 田 農 業 を 積 極 的 にめざしている つい 最 近 まで 多 くの 農 家 は 時 にイネに 害 を 与 えるガンを 害 鳥 とし て 敵 視 してきたが 環 境 変 化 に 敏 感 なガン 類 が 飛 来 す る 水 田 は 安 全 安 心 の 米 を 生 産 している 証 と 考 えるよう になった ガン 類 を 見 るま なざしが 変 わり 米 に 付 加 価 値 を 生 み 出 すガン 類 を 積 極 的 に 自 らの 水 田 へ 呼 び 寄 せようとする 取 り 組 みが 始 まった その 中 心 となった のが 冬 の 田 んぼに 水 を 張 る ふゆみずたんぼ であ る その 機 能 を 検 証 する 総 合 調 査 が 水 鳥 と 共 生 する 冬 期 湛 水 水 田 の 多 面 的 機 能 の 解 明 と 自 然 共 生 型 農 業 モデル 構 築 に 関 する 研 究 として 行 われた その 一 環 として 冬 期 のガン 類 の 分 布 行 動 と 利 用 水 田 の 農 法 との 関 係 の 調 査 と 共 に 冬 期 湛 水 の 効 果 が 夏 のサギ 類 に 及 ぼす 効 果 の 検 証 も 行 われた 調 査 は 2005 年 度 と 2006 年 度 に 宮 城 県 蕪 栗 沼 の 周 辺 水 田 で 行 われた 2005/06 年 と 2006/07 年 の 越 冬 期 に 蕪 栗 沼 に 隣 接 し 集 団 でふゆみずたんぼ の 取 り 組 みが 行 われている 伸 萠 (しんぽう) 地 区 水 田 で ガン 類 の 調 査 が 行 われた そ の 際 にガン 類 が 利 用 した 水 田 の 農 法 も 記 録 した 暖 冬 でふゆみずたんぼが 凍 結 しなかった 06/07 年 は ガン 類 のふゆみずたんぼの 利 用 頻 度 も 高 く ガン 類 は 午 前 中 は 乾 田 や 湿 田 で 過 ごし 昼 前 後 にふゆみずたんぼに 集 中 し 午 後 は 再 び 乾 田 や 湿 田 へ 分 散 することが 多 かっ た 行 動 面 では 乾 田 や 湿 田 で 主 に 採 食 し ふゆみずたんぼでは 休 息 羽 づくろい 水 浴 J-23
25 びなどが 多 く ふゆみずたんぼを 擬 似 湖 沼 として 利 用 していることが 明 らかになった こ れらの 結 果 は 99/00 年 の 結 果 とよく 一 致 した 一 方 冬 期 湛 水 の 効 果 が 翌 年 の 夏 に 水 鳥 に 及 ぼす 効 果 を 検 証 するために 夏 に 渡 来 する 動 物 食 のサギ 類 を 対 象 として ふゆみず たんぼが 夏 のサギ 類 に 及 ぼす 保 全 機 能 の 検 証 を 行 った サギ 類 は 夏 期 にふゆみず たんぼを 選 択 的 に 利 用 し サギ 類 全 種 の ふゆみずたんぼでの 生 息 密 度 は 非 ふゆ みずたんぼの 4.4 倍 (アマサギを 除 く) ~3.7 倍 (アマサギを 含 める)となった またふゆみずたんぼ では 非 ふゆみずたんぼに 比 べサギ 類 の 個 体 数 も 多 く 水 田 への 依 存 性 が 高 いダイサギは 3.7 倍,チュウサギは 3.5 倍 となった これらの 結 果 から ふゆみずたんぼは 冬 期 のガン 類 のみならず 夏 期 の 水 田 の 生 物 多 様 性 を 高 め サギ 類 の 保 全 機 能 も 高 いことが 示 された 農 業 面 から 見 た 場 合 サギ 類 が 飛 来 する 水 田 は 多 様 な 生 物 が 生 息 し その 力 を 借 りて 個 体 数 /ha アオサギ アマサギ ダイサギ チュウサギ コサギ 合 計 平 均 平 均 ふゆみずたんぼ 非 ふゆみずたんぼ アオサギ アマサギ ダイサギ チュウサギ コサギ 合 計 安 全 な 米 を 生 産 する 水 田 を 意 味 する 全 国 に 分 布 するサギ 類 に 注 目 し その 生 息 環 境 に 配 慮 すること により 各 地 の 水 田 で その 環 境 的 価 値 と 米 の 経 済 価 値 を 高 めることは 可 能 であ る 図 24 作 付 けの 違 いによる 夏 期 のサギ 類 の 出 現 密 度 (2005,2006 年 伸 萠 地 区 水 田 ) J-24
26 第 1 回 日 韓 NGO 湿 地 フォーラム 要 旨 生 物 多 様 性 を 利 用 した 稲 作 ふゆみずたんぼ の 挑 戦 蕪 栗 沼 から 全 国 へ その2; 環 境 創 造 型 農 業 の 展 開 と 田 んぼの 生 き 物 調 査 岩 渕 成 紀 NPO 法 人 田 んぼ 理 事 長 Ⅰ.はじめに 平 成 11 年 7 月 制 定 の 食 料 農 業 農 村 基 本 法, 平 成 13 年 6 月 の 土 地 改 良 法 の 改 正 によ り, 農 業 農 村 整 備 事 業 の 実 施 にあたって 環 境 との 調 和 への 配 慮 が 位 置 づけられた ま た, 平 成 14 年 12 月 に 自 然 再 生 推 進 法 が 成 立 し,これまでの 開 発 で 損 なわれた 自 然 環 境 の 復 元 のため, 生 物 多 様 性 確 保 を 通 じた 自 然 との 共 生, 地 域 の 多 様 な 主 体 の 参 加 連 携, 長 期 的 な 視 点 からの 順 応 的 取 り 組 みが 主 たる 視 点 として 示 され, 田 んぼの 生 物 のモニタリン グと 自 然 環 境 学 習 プログラム 整 備 が 中 心 課 題 となった さらに 平 成 18 年 12 月 には 有 機 農 法 振 興 法 が 制 定 され 平 成 19 年 4 月 から 農 地 水 環 境 保 全 向 上 対 策 により 環 境 直 接 支 払 いが 始 まり 平 成 19 年 11 月 には 第 3 次 生 物 多 様 性 国 家 戦 略 が 策 定 される 予 定 である このように 環 境 と 共 生 した 農 業 が 注 目 される 中 生 物 多 様 性 を 利 用 した 稲 作 である ふゆ みずたんぼ による 地 域 発 信 型 の 実 践 が 着 実 に 育 っている ここでは 田 尻 町 伸 萠 地 区 田 尻 北 小 塩 地 区 伊 豆 沼 2 工 区 での 農 家 行 政 機 関 と 地 域 住 民, 研 究 者,NPOが 共 同 で 自 然 環 境 との 共 生 を 図 った 市 民 参 加 型 の 生 きもの 調 査 の 結 果 と 在 り 方 を 中 心 に 検 討 したのでその 結 果 を 中 心 に 報 告 する Ⅱ. 地 域 の 概 要 と 調 査 方 法 1. 地 域 の 概 要 田 尻 町 伸 萠 地 区 北 小 塩 地 区 伊 豆 沼 二 工 区 は 宮 城 県 北 部 に 位 置 し, 蕪 栗 沼 周 辺 水 田 伊 豆 沼 内 沼 という 形 で 共 にラムサール 条 約 の 登 録 湿 地 に 指 定 されている 地 域 で ある 2, 調 査 方 法 (1) 基 礎 調 査 について 各 圃 場 の 基 礎 的 な 情 報 を 基 礎 調 査 用 紙 に 記 載 する 肥 培 管 理 耕 起 代 かき 田 植 え 水 管 理 中 干 し 畦 畔 管 理 圃 場 整 備 の 有 無 用 水 の 形 態 冬 期 湛 水 の 有 無 畦 の 草 刈 り 頻 度 除 草 剤 使 用 有 無 とその 他 の 抑 草 管 理 殺 菌 剤 殺 虫 剤 使 用 の 有 無 など 農 家 が 田 んぼの 管 理 上 行 っている 内 容 をできる だけ 丁 寧 に 聞 き 取 り 調 査 を 行 い 記 載 した また 生 息 環 境 の 基 礎 情 報 として 田 んぼの 水 質 土 壌 の 物 理 化 学 情 報 である 水 温 気 温 水 深 ph 酸 化 還 元 電 位 ( 土 中 3cm) 溶 存 酸 素 電 気 伝 導 度 を 測 定 した (2) 底 棲 動 物 の 調 査 100[ 匹 /100m 当 ] イトミミズ 2000[ 万 匹 /10a] 造 網 性 のクモ 100[ 匹 /200 株 当 ]た り] ユスリカ 100[ 万 匹 /10a] 徘 徊 性 のクモ 20[ 匹 /200 株 当 ]た り] 田 んぼの 稲 株 の 間 にコドラート(20cm 50cm)を 沈 め, 土 中 の 表 面 2~3cm を 網 ですくう イトミミズとユスリカのみの 調 査 を 行 う 場 合 は 土 壌 採 集 器 具 を 利 用 し 10cmの 土 を 採 集 し 田 んぼの 中 心 地 点 1カ 所 と 対 角 線 と 中 心 の 1/2 の 地 点 を4カ 所, 合 計 5カ 所 を 調 査 カエル ふゆみずたんぼ 慣 行 図 2 冬 期 湛 水 水 田 無 農 薬 無 化 学 肥 料 不 耕 起 栽 培 と 慣 行 農 法 の 水 田 の 生 物 相 の 比 較 (2005 年 伊 豆 沼 二 工 区 調 査 による) J-25
27 し,その 平 均 から 10a 当 たりの 個 体 数 を 算 定 した( 対 角 線 法 ) クモ 類 の 調 査 田 んぼの 中 に 入 って 一 株 ずつ 株 元 を 観 察 する 20 株 10セット 以 上 で200 株 以 上 調 査 して 出 現 種 と 数 を 数 えた Ⅲ 調 査 結 果 1 ふゆみずたんぼと 慣 行 農 法 水 田 の 生 物 相 の 違 いについて 農 法 による 生 物 層 の 違 いが 明 確 であることが 分 かった( 図 1) ふゆみずたんぼの 生 物 量 が 全 体 に 多 かった 特 にイトミミズ 徘 徊 性 のクモでその 差 が 大 きく 見 られた カエル 類 や 造 網 性 のクモ 類 は 2 倍 程 度 の 差 で ユスリカについては 有 意 な 差 は 見 られなかった 2 イ ト ミ ミ ズ に つ い て 田 尻 町 伸 萠 地 区 の ふ ゆ み ず た ん ぼ 区 の イ ト ミ ミ ズ 個 体 数 の 変 動 を 調 査 し た ( 図 2 ) イ ト ミ ミ ズ の 個 体 数 が 300 万 匹 を 越 え る と 抑 草 効 果 が 現 れ る と さ れ て い る が 4 月 上 旬 に は こ の 値 を 超 え 急 激 に 個 体 数 が 増 え る こ と が 分 か っ た イ ト ミ 図 2 ふゆみずたんぼのイトミミズの 個 体 数 の 変 遷 /12/ /1/ /2/ /3/ /4/ /5 / /6/ / 7/ /8 /27 ミ ズ は 土 を つ く る と い わ れ て い る が 北 緯 43 度 の 北 海 道 北 竜 町 黄 倉 氏 の 田 ん ぼ か ら 3000 キ ロ も 離 れ た 北 緯 24 度 の 沖 縄 石 垣 島 の 仲 新 城 氏 の 田 ん ぼ ま で 十 分 な 数 の イ ト ミ ミ ズ が 棲 息 し て い る こ と が NPO 法 人 田 ん ぼ に よ る 調 査 に よ り 分 か っ た Ⅳ 農 家 の 考 える 田 んぼの 生 きもの 調 査 の 目 的 田 尻 地 域 で 田 んぼの 生 きもの 調 査 実 践 農 家 72 名 の 生 きもの 調 査 の 目 的 をアンケートに よって 調 べた 結 果 が 図 3である( 平 成 19 年 1 月 ) 何 のための 生 きもの 調 査 か? についても 多 かった 答 えは 有 機 農 業 を はじめとする 生 物 多 様 性 と 共 生 する 農 業 の 技 術 の 成 果 としての 20%であった 続 いて 米 の 価 値 を 高 めるため 15% 未 来 のため 14%, 水 田 実 態 をつかむため 12% 新 しい 技 術 農 業 政 策 として 12% 自 分 のため 11%などと 多 様 な 返 答 が 帰 ってき ている 農 家 の 期 待 や 考 えそのものが 多 様 であるということが 田 んぼの 生 きも の 調 査 の 可 能 性 の 高 さを 示 している J-26
28 東 アジアにおける 環 境 創 造 型 稲 作 の 展 開 をめざして NPO 法 人 民 間 稲 作 研 究 所 : 稲 葉 光 國 1 アジアの 稲 作 農 民 は 湿 地 を 活 用 し 栄 養 価 の 高 い 主 穀 農 産 物 を 生 産 してきた (1) 湿 地 は 長 期 間 に 亘 って 養 分 が 流 れ 込 み 豊 かな 土 壌 を 形 成 してきた 場 所 である (2)イネは 湿 地 の 特 性 をあまり 変 えずに 生 産 される 唯 一 の 主 穀 作 物 である (3) 水 田 は 湿 地 のもつ 高 い 植 物 生 産 力 を 残 しながら 第 2 次 自 然 を 形 成 し 多 くの 人 口 と 多 様 性 に 富 んだ 豊 かな 動 植 物 を 養 ってきた (4)お 米 はミネラルバランスに 優 れ 必 須 アミノ 酸 価 の 高 い 主 食 であり デンプンの 分 解 が 遅 く 持 続 性 のあるエネルギー 源 を 人 々に 与 えてきた 2 近 代 農 業 がもたらした 湿 地 環 境 の 破 壊 と 非 循 環 型 農 法 (1) 第 2 次 大 戦 後 東 アジアの 稲 作 は 化 学 肥 料 と 化 学 農 薬 を 多 用 し そして 基 盤 整 備 に よって 水 田 を 湿 地 環 境 から 分 離 し 豊 かな 植 物 生 産 力 を 失 い 化 学 肥 料 で 育 てる 多 投 入 型 稲 作 になった (2) 生 きものの 連 鎖 が 断 ち 切 られ イネの 生 命 力 (ミネラル 成 分 の 不 足 )が 衰 えてきた (3) 化 学 農 薬 でコウノトリ トキそして 農 民 や 市 民 も 犠 牲 になり 多 くの 命 が 絶 滅 危 惧 種 となった (4) 特 に 田 植 機 稲 作 の 普 及 は 病 害 虫 の 多 発 と 農 薬 の 多 用 をもたらし 日 韓 両 国 は 世 界 一 の 農 薬 使 用 国 になった 3 東 アジアにおける 有 機 稲 作 の 普 及 と 環 境 再 生 運 動 (1) 田 植 機 稲 作 の 変 革 と 生 物 多 様 性 を 活 かした 抑 草 技 術 の 開 発 で 環 境 再 生 の 目 途 が 立 った (2) 日 韓 中 環 境 創 造 型 有 機 稲 作 技 術 交 流 会 議 における 環 境 再 生 運 動 の 特 徴 と 課 題 1 水 田 生 物 の 多 様 性 を 活 かした 抑 草 技 術 の 探 求 アイガモ 農 法 からジャンボタニシ 農 法 への 流 れを 食 い 止 め 水 田 内 に 生 息 する 動 植 物 の 復 活 を 通 じて 抑 草 する 技 術 体 系 の 普 及 が 緊 急 の 課 題 となっている (3) 普 及 のためのいくつかの 課 題 1 病 害 発 生 の 根 本 的 原 因 である 田 植 機 稲 作 による 密 植 を 解 消 するために 必 要 な 苗 質 の 稚 苗 から 成 苗 への 変 革 精 密 な 播 種 機 によるうす 撒 きの 徹 底 と 疎 植 栽 培 2 不 熟 有 機 物 の 多 投 と 深 耕 による 根 ぐされの 発 生 と 病 害 虫 の 多 発 を 防 止 するため の 半 不 耕 起 栽 培 の 普 及 3 冬 期 湛 水 早 期 湛 水 による 水 田 生 物 の 復 活 と 抑 草 への 活 用 技 術 の 普 及 抑 草 技 術 のポイントを 伝 えるための 実 証 圃 の 設 置 4 水 田 内 ビオトープの 設 置 と 市 民 参 加 型 の 生 き 物 調 査 による 支 援 活 動 5 東 アジアの 湿 地 植 物 の 繁 茂 力 を 活 かした 稲 作 技 術 への 発 展 4 技 術 普 及 と 支 援 のための 施 策 (1) 技 術 支 援 センターの 設 置 (2) 水 田 の 多 面 的 機 能 とその 賢 明 な 利 用 を 促 すための 環 境 直 接 支 払 いによる 支 援 1 農 水 省 版 生 物 多 様 性 と 有 機 稲 作 などの 農 法 支 援 2 環 境 省 版 生 物 多 様 性 とけい 畔 管 理 生 態 系 管 理 への 支 援 3 国 土 交 通 省 による 河 川 道 路 法 面 管 理 への 直 接 支 払 い 4 文 科 省 による 生 き 物 調 査 への 直 接 支 払 い J-27
29 国 際 的 に 重 要 な 韓 国 の 田 んぼと 湿 地 キム キョンウォン( 金 敬 源 ) 環 境 運 動 連 合 湿 地 センター 局 長 韓 国 で 田 んぼという 空 間 は 最 近 まで 農 業 を 目 的 にする 空 間 としてのみ 認 識 されて 来 た このため 稲 の 収 穫 量 を 高 めるために 化 学 肥 料 を 使 うことや 大 規 模 耕 作 のための 農 地 整 理 など 田 んぼの 形 態 を 変 えることは 何 ら 問 題 とされてこなかった 幸 いなことに 最 近 は 有 機 農 業 や 環 境 親 和 的 農 業 という 名 前 で 農 業 に 対 する 認 識 が 変 わってきたが 相 変 らず 田 んぼは 農 業 のための 空 間 に 過 ぎない その 上 都 市 膨 脹 と 道 路 建 設 産 業 用 地 利 用 などさ まざまな 形 の 開 発 で 田 んぼが 徐 々にその 姿 を 失 って 行 くというのが 現 実 であり 胸 が 痛 む 韓 国 の 自 然 生 態 系 で 田 んぼという 空 間 は 河 川 生 態 系 と 密 接 に 繋 がる 場 所 である 今 の 現 代 化 された 田 んぼの 形 が 作 られる 前 韓 国 では 川 の 氾 濫 や 洪 水 による 自 然 の 変 化 に 直 接 的 な 影 響 を 受 ける 最 も 代 表 的 な 空 間 がまさに 田 んぼであった ラムサール 条 約 は 人 工 的 や 一 時 的 な 湿 地 も 重 要 な 湿 地 のリストに 含 む このように 見 る 時 春 と 夏 また 場 合 によっ ては 冬 にも 水 がたまっている 田 んぼは 韓 国 の 代 表 的 な 湿 地 生 態 系 だ 国 際 的 な 絶 滅 の 危 機 に 瀕 しているクロツラヘラサギとタンチョウ そして 多 くの 水 鳥 た ちにとって 韓 国 の 田 んぼは 四 季 を 通 じて 重 要 な 生 息 地 である 韓 国 で 繁 殖 するクロツラヘ ラサギは 繁 殖 の 時 期 に 田 植 の 準 備 をしている 浅 い 田 んぼでえさを 捜 すことが 明 らかにな った また 秋 の 刈 り 取 りが 終 わった 冬 の 田 んぼはツル 類 とガン 類 の 重 要 な 越 冬 地 となって いる 田 んぼの 生 態 系 がこのように 水 鳥 たちの 重 要 な 生 息 地 になる 理 由 は それが 河 川 と つながって 一 つの 生 態 系 を 形 成 しているからだ 田 んぼという 生 態 系 は 地 球 を 旅 する 水 鳥 たちに 対 して 重 要 な 湿 地 という 機 能 を 生 き 生 きと 果 たしている 田 んぼの 主 な 機 能 は 何 よりも 数 千 年 の 間 韓 国 人 の 生 存 と 生 活 のための 絶 対 的 な 空 間 と いう 事 実 である 田 んぼと 共 に 作 られた 生 活 の 形 と 文 化 は 韓 国 社 会 の 重 要 な 歴 史 的 過 程 だ 現 在 韓 国 社 会 は 田 んぼと 農 業 をめぐる 新 しい 挑 戦 に 直 面 している 産 業 構 造 の 変 化 と 国 際 貿 易 の 中 で 田 んぼと 農 業 は 生 存 の 岐 路 に 立 っているということができる 農 業 構 造 を 変 化 させたり 田 んぼの 生 物 多 様 性 を 高 めたりなど 田 んぼに 対 する 認 識 を 新 たに 拡 げる 試 みが なされている 過 程 である 最 近 何 年 かの 間 に 環 境 親 和 的 農 法 や 有 機 農 業 を 中 心 に 田 んぼの 生 物 の 大 切 さを 広 く 知 らせ 記 録 し 学 習 するという 過 程 は 田 んぼと 湿 地 に 対 してこれ までとは 違 う 解 決 方 法 を 探 す 試 みと 見 てもよい 2008 年 韓 国 で 開 かれるラムサール 会 議 において 水 鳥 生 息 地 として 重 要 な 田 んぼという 湿 地 についての 論 議 が 活 発 に 行 われることが 期 待 されている モンスーン 気 候 の 田 んぼ 生 態 系 をもつ 東 アジアの 国 々が 共 同 で 直 面 している 田 んぼと 農 業 に 対 する 小 さな 変 化 を 試 みることができる 機 会 でもある 田 んぼを 湿 地 生 態 系 として 理 解 し 認 識 することは 農 業 に 変 化 をもたらすであろう 小 さな 芽 ではあるが 田 んぼを 湿 地 という 生 態 系 として 認 識 することで 田 んぼと 共 に 生 き 続 けて 来 た 生 物 多 様 性 を 守 り 通 そうという 動 きが 本 格 的 に 始 まった 韓 国 で 2008 年 に 開 かれるラムサール 会 議 を 契 機 に 田 んぼの 生 物 多 様 性 と 湿 地 として 重 要 な 田 んぼの 生 態 系 について 新 たな 認 識 の 元 に 行 動 することを 期 待 する J-28
30 持 続 可 能 な 沿 岸 漁 業 に 不 可 欠 な 干 潟 その 機 能 と 保 全 佐 々 木 克 之 1. 干 潟 の 重 要 性 の 例 三 河 湾 の 例 三 河 湾 を 赤 潮 と 貧 酸 素 から 守 るには 干 潟 生 物 の 水 質 浄 化 力 が 必 要 水 質 浄 化 力 とくに 二 枚 貝 の 寄 与 が 大 きい 二 枚 貝 生 産 力 干 潟 浅 海 域 が 必 要 干 潟 二 枚 貝 二 次 浄 化 力 赤 潮 防 除 貧 酸 素 化 防 止 2. 干 潟 の 重 要 性 1) 高 い 生 物 生 産 力 と 漁 業 生 産 力 2) 高 い 水 質 浄 化 力 3) 稚 仔 魚 の 養 育 場 3. 干 潟 の 生 産 力 と 浄 化 力 を 作 り 出 したもの 物 理 的 潮 流 付 着 藻 類 貝 類 へ 餌 供 給 河 川 流 栄 養 供 給 エスチュアリー 循 環 光 植 物 プランクトン 生 産 大 型 藻 ( 草 ) 類 生 産 砂 供 給 干 潟 の 形 成 と 維 持 化 学 的 栄 養 物 質 の 供 給 植 物 プランクトン 生 産 酸 素 供 給 底 生 生 物 生 産 生 物 的 底 生 生 物 の 卓 越 高 い 二 次 生 産 力 が 高 い 漁 業 生 産 力 に 流 域 環 境 と 干 潟 との 関 わり 河 川 流 砂 供 給 栄 養 物 質 の 供 給 4. 埋 め 立 てがもたらしたもの 諫 早 湾 干 拓 事 業 の 例 1) 浄 化 力 の 喪 失 ( 諫 早 湾 干 潟 の 喪 失 ) 2) 潮 流 の 弱 まり( 海 面 積 の 減 少 ) 3) 稚 仔 魚 の 養 育 場 の 喪 失 4) 赤 潮 と 貧 酸 素 (1)と 2)による) 5) 漁 場 環 境 の 極 端 な 悪 化 5. 干 潟 の 賢 明 な 利 用 漁 業 資 源 は 繰 り 返 し 利 用 可 能 な 資 源 であり 長 い 目 でみれば 人 間 にとって 有 効 とくに 日 本 で も 世 界 でも 漁 業 資 源 が 枯 渇 に 向 かう 時 代 には 極 めて 有 効 6. 干 潟 の 賢 明 な 利 用 方 策 1) 埋 め 立 てを 見 直 し 原 則 禁 止 埋 め 立 てで 得 られる 土 地 利 用 ( 工 場 農 場 など)は 代 替 可 能 もしくは 無 駄 廃 棄 物 浚 渫 土 砂 用 埋 め 立 てはリサイクルを 基 本 とする 2) 埋 立 地 を 元 の 干 潟 にもどす 活 動 3) 流 域 環 境 の 見 直 し ダムと 河 川 周 辺 環 境 の 見 直 し 森 林 整 備 など J-29
31 韓 国 の 漁 業 と 湿 地 保 全 ソチョン( 舒 川 ) 環 境 運 動 連 合 事 務 局 長 ヨ ギルク 漁 業 資 源 が 不 足 すると 沿 岸 湿 地 が 破 壊 される チルサン 島 ヨンピョン 島 などの 地 域 はイシモチが 大 量 に 獲 れ 船 上 の 市 場 を 成 した 地 域 であ る 漁 業 技 術 発 達 以 前 帆 掛 け 船 に 乗 って 操 業 すると 多 くのイシモチが 獲 れて ヨンカンの 干 し イシモチ という 代 表 的 な 塩 漬 け 乾 燥 商 品 ができた まさに 西 海 は 水 半 分 魚 半 分 だったのだ しかし 1990 年 代 を 過 ぎると 小 型 漁 船 までレーダー 魚 群 探 知 機 GPS などを 使 って 漁 業 技 術 は 発 展 し 漁 獲 強 盗 が 著 しく 増 え このために 水 産 資 源 が 乱 獲 された 他 方 1980 年 代 を 過 ぎると 河 口 が 閉 めきられて 干 拓 埋 め 立 て 事 業 が 盛 んになって 沿 岸 湿 地 が 消 えるとともに 韓 国 西 海 岸 の 水 産 資 源 が 減 っていった 水 産 資 源 が 減 っていくと 漁 民 たちどうしの 深 刻 な 漁 獲 競 争 が 発 生 する この 競 争 で 遅 れをとっ た 漁 民 たちは 簡 単 に 海 を 放 棄 して 他 の 仕 事 を 捜 し 始 める このような 時 期 に 干 拓 や 埋 め 立 て 事 業 など 開 発 計 画 が 出 れば 容 易 に 同 意 してくれて 漁 業 補 償 を 望 むという 問 題 が 生 じる チャンハン ( 長 項 )でもチャンハン 産 業 団 地 推 進 側 は 漁 業 をあきらめた 漁 民 を 立 てて ずっと 干 潟 が 腐 った ので 埋 め 立 てよう と 主 張 してきた 魚 の 産 卵 場 と 保 育 場 である 沿 岸 湿 地 を 保 全 することが 水 産 資 源 を 保 全 することであって 漁 民 たちの 漁 業 活 動 を 維 持 するということは 彼 らの 生 活 の 基 盤 である 沿 岸 湿 地 を 保 護 することなのである 干 潟 を 失 ったセマングム 漁 民 たちがさまよっている ソチョン 郡 の 路 地 ごとに 長 項 産 業 団 地 即 時 着 工 という 黄 色 い 旗 が 波 打 っていてソチョンの 人 々の 中 90% 位 が 長 項 産 業 団 地 即 時 着 工 署 名 をしたというニュース 放 送 が 流 れた 時 にセマ ングム 干 潟 保 全 運 動 をして 来 たケファド( 界 火 島 )のコ ウンシクさんとお 母 さんたちがクムガン ( 錦 江 ) 環 境 教 育 センターに 私 を 励 まそうと 尋 ねて 来 た 彼 らはチャンハン 干 潟 を 見 せてくれと 言 っ た チャンハン 干 潟 に 立 った 彼 らは 私 たちの 干 潟 も 昔 にはこんなだったのに と 言 った セマングム 干 潟 を 何 文 という 補 償 によって 奪 われ 彼 らはいまや 食 堂 で 工 場 で 他 の 職 場 で 流 浪 の 生 活 をしているのだ 彼 らはチャンハン 干 潟 で 漁 民 たちが クレ(ジョレン) でハマグリ を 取 る 姿 を 見 て しきりに 羨 ましがった 干 潟 が 消 えるとすることがなくなって 問 題 がたくさん 出 てくる 上 に 精 神 までもが 混 乱 していると 言 いながらチャンハン 干 潟 は 絶 対 保 全 しなければな らないと 言 った 漁 民 たちは 干 潟 の 価 値 を 理 解 すれば 保 全 を 願 う セマングムの 漁 民 たちは 自 分 たちが 利 用 している 干 潟 の 価 値 をよく 理 解 することができなかった 点 が 惜 しいことだ チャンハン 干 潟 ではこんな 経 験 を 繰 り 返 さないように 漁 民 たちの 漁 獲 資 料 を 集 めて 経 済 的 価 値 や 波 及 効 果 を 描 きだした チャンハン 干 潟 と 周 辺 海 域 で 生 産 する 漁 獲 量 は 3 千 億 ウォン 位 で この 水 産 物 が 商 人 たちを 通 じて 加 工 など 消 費 者 に 伝 達 するまで 発 生 される 波 及 効 果 は 1 兆 ウォンを 超 えるという 数 値 が 描 かれ この 資 料 は 政 府 専 門 家 地 域 住 民 市 民 社 会 団 体 を 含 め 漁 民 自 身 までをも 説 得 し 尽 す 資 料 となった 単 に 保 全 しなさい と 言 う 掛 け 声 だけでは 多 くの 人 々から 同 調 を 引 き 出 すことができないのだ 干 潟 保 全 運 動 は 多 くの 利 害 当 事 者 をどのように 説 得 し 尽 すかによって 保 全 運 動 の 流 れが 全 く 違 った 方 向 に 展 開 される チャンハン 干 潟 を 保 全 するため 生 態 経 済 文 化 調 査 をし これを 資 料 化 して 最 大 のパーセントを 占 める 利 害 当 事 者 である 漁 民 たちにまず 理 解 してもらった 漁 民 たちが 干 潟 をあきらめない 状 態 で 行 政 専 門 家 を 含 めた 人 々の 認 識 を 転 換 させる 作 業 に 力 を 注 ぎ チャンハン 干 潟 を 保 全 する 流 れが 作 られたのだ J-30
32 日 韓 NGO 湿 地 フォーラム 2007 花 輪 レジメ(10 月 13 日 午 後 のセッション) すべての 湿 地 を 賢 明 に 利 用 していくために - 趣 旨 説 明 と 問 題 提 起 - 花 輪 伸 一 日 本 と 韓 国 は, 他 の 東 アジアの 国 々と 同 様 に,かつては 湿 地 を 賢 明 な 方 法 で 利 用 してい た. 湿 原 には 水 田 がつくられて 持 続 的 な 農 業 が 営 まれた. 河 川 や 湖 沼 は 内 水 面 漁 業 や 舟 運 に 利 用 され, 遊 水 池, 貯 水 池 として 治 水, 利 水 の 役 割 も 担 っていた. 干 潟 や 藻 場, 浅 海 域 では 持 続 的 な 沿 岸 漁 業 が 営 まれ, 豊 かな 漁 獲 高 があり 重 要 な 海 産 物 資 源 であった.これら の 湿 地 には, 栽 培 植 物 や 漁 獲 対 象 種 ばかりでなく, 様 々な 生 物 が 数 多 く 生 育, 生 息 し, 生 物 多 様 性 を 保 持 してきた. しかし, 国 家 の 政 策 として, 第 一 次 産 業 よりも 製 造 業 や 重 化 学 工 業 による 経 済 発 展 が 重 視 されるようになると, 湿 原 や 干 潟 は 埋 め 立 てられ, 工 場 用 地 や 住 宅 地 などに 姿 を 変 えて いった. 各 地 で 湿 地 を 守 る 市 民 運 動 がくり 広 げられたが, 多 くの 重 要 な 湿 地 が 失 われてい る.1993 年 に 釧 路 市 で 開 催 されたラムサール 条 約 締 約 国 会 議 (COP5)は, 湿 地 保 全 の 意 義 が 社 会 的 に 知 られるよい 機 会 であった.その 後, 日 本 の 湿 地 保 護 政 策 もようやく 前 進 し 始 めたが, 従 来 の 開 発 志 向 のまま,まったく 進 んでいない 地 域 も 少 なくない. このセッションでは,ラムサール 条 約 で 求 められている 条 約 湿 地 およびそれ 以 外 の 湿 地 の 保 全 にもとづき,すべての 湿 地 を 賢 明 に 利 用 していくための 方 法 を 探 ることを 目 的 にし ている.そのため,まず, 以 下 の 内 容 について, 日 韓 のそれぞれの 地 域, 流 域, 再 生, 調 査, 国 際 協 力 の 事 例 から 学 び, 続 いて, 賢 明 な 利 用 の 実 現 のための 課 題 とその 解 決 方 法 に ついて 議 論 したい. < 事 例 > 1. 森, 川, 海 の 水 系 全 体 を 視 野 に 入 れた 流 域 の 保 全. 2. 森 と 海 を 結 び, 流 域 に 多 くの 人 々が 住 む 河 川 の 整 備 計 画 と 賢 明 な 利 用. 3. 地 域 活 動 による 湿 地 保 全 と 再 生,それを 通 しての 社 会 システムの 転 換. 4. 湿 地 保 全 の 基 礎 となる 環 境 と 生 物 のモニタリング 調 査. 5. 日 韓 中 共 同 による 沿 岸 域 保 全 と 賢 明 な 利 用 の 促 進. < 課 題 の 例 > 1. 流 域 保 全 の 考 え 方 を, 一 般 市 民 や 政 策 策 定 者 にどのように 広 めるか. 2. 森, 川, 海 は, 水 系 として 一 体 であるが, 行 政 の 縦 割 りを,どうするか. 3. 地 域 活 動 から 社 会 システム 転 換 への 道 のりを,どのようにして 共 有 するか. 4. モニタリング 調 査 の 結 果 を,どのように 政 策 に 生 かすのか. 5. 国 際 協 力 による 賢 明 な 利 用 の 実 現 を,どのように 始 めるか. 花 輪 伸 一 (はなわしんいち):WWF ジャパン,hanawa@wwf.or.jp J-31
33 市 民 型 公 共 事 業 霞 ヶ 浦 アサザプロジェクト~ 中 心 の 無 い 動 的 なネットワークで 社 会 の 壁 を 溶 かし 膜 に 変 える NPO 法 人 アサザ 基 金 代 表 理 事 飯 島 博 アサザプロジェクトは 1995 年 に 始 まった 市 民 型 公 共 事 業 である のべ14 万 人 の 市 民 が 参 加 して 国 内 で 二 番 目 に 大 きい 湖 沼 である 霞 ヶ 浦 ( 流 域 面 積 2,200 平 方 キロメートル)の 環 境 保 全 と 自 然 再 生 を 目 的 に 社 会 システムの 再 構 築 をめざす 様 々な 取 組 を 行 っている 広 大 な 流 域 には28の 市 町 村 と 茨 城 千 葉 栃 木 の3 県 が 含 まれている 流 域 は 行 政 の 縦 割 りによって 覆 われているため 生 態 系 ( 流 域 )の 視 点 をもった 総 合 的 な 政 策 や 取 組 が 不 可 能 な 状 況 にあった 行 政 分 野 ごとに 縦 割 り 自 己 完 結 型 で 実 施 される 政 策 や 取 組 の 限 界 は 明 らかで それらは 水 質 汚 濁 や 生 物 多 様 性 の 低 下 といった 霞 ヶ 浦 が 抱 える 問 題 の 根 本 的 な 解 決 に 結 び 付 くことはなかった 水 資 源 開 発 事 業 等 の 影 響 で 環 境 悪 化 が 深 刻 化 した1970 年 代 以 降 行 政 は 水 質 基 準 を 達 成 する 見 通 しさえ 示 せない 状 況 にある 生 態 系 を 視 野 に 入 れた 総 合 化 を 困 難 にしている 主 な 原 因 は 行 政 の 縦 割 り 化 や 研 究 の 専 門 分 化 にある しかし これらの 専 門 組 織 や 専 門 領 域 を 隔 てる 壁 を 壊 して 取 り 払 うこ とは 不 可 能 に 違 いない そこで 私 はネットワークで 壁 を 溶 かし 膜 に 変 えることを 考 えた 壊 す のではなく 溶 かす という 発 想 だ また 総 合 化 を する ものではなく 起 きる ものと 考 えることにした つまり 総 合 化 が 起 きる 場 の 創 出 を 考 えた アサザプロジェクトがそのような 場 を 創 出 するためにまず 行 ったのは 地 域 コミュニテ ィのネットワーク 化 によって 流 域 を 覆 う 取 組 であった 日 本 では 伝 統 的 に 地 域 コミュニ ティの 範 囲 と 小 学 校 区 の 範 囲 が 一 致 している 地 域 が 多 い 霞 ヶ 浦 流 域 もその 例 外 ではない そこで 霞 ヶ 浦 再 生 をテーマにした 総 合 学 習 を 流 域 の170を 越 える 小 学 校 で 行 い 流 域 での 学 習 のネットワーク 化 を 進 めた 各 学 校 では 霞 ヶ 浦 と 同 時 に 自 分 たちの 学 区 内 の 環 境 についての 学 習 を 行 っている 別 の 文 脈 で つまりカエルやトンボ メダカなどの 野 生 生 物 の 視 点 で 学 区 や 町 の 空 間 を 読 み 直 す 学 習 を 行 う 野 生 生 物 の 生 態 を 学 習 することで 野 生 生 物 との 共 存 に 向 けた 町 の 空 間 の 読 み 替 えもできるようになる そのような 学 習 を 積 み 重 ねながら 子 ども 達 は 自 然 と 共 存 する 町 づくりの 提 案 をまとめていく 目 標 は100 年 後 にトキやコウノトリの 舞 う 霞 ヶ 浦 である 現 在 は 毎 年 のべ1 万 人 以 上 の 小 中 学 生 が 流 域 各 地 で 様 々な 学 習 活 動 を 展 開 している 霞 ヶ 浦 で 行 われてきた 大 規 模 な 自 然 再 生 事 業 ( 国 の 公 共 事 業 )も 子 ども 達 のこれらの 学 習 活 動 をベースに 市 民 型 公 共 事 業 とし て 実 施 されてきた 同 時 に 流 域 各 地 では 子 ども 達 の 提 案 を 基 にした 水 源 地 の 再 生 事 業 が 地 域 の 大 人 たちと 協 働 で 町 づくりの 一 環 として 実 施 されている 学 校 の 多 様 な 活 動 がネットワークとなって 流 域 を 覆 ったことで 生 態 系 を 意 識 した 新 た な 人 やモノ 金 の 動 きを 作 る 事 業 展 開 の 場 が 生 まれた アサザプロジェクトには 農 林 水 産 業 をはじめとした 地 場 産 業 や 企 業 大 学 研 究 機 関 行 政 機 関 学 校 自 治 会 市 民 団 体 などの 多 様 な 組 織 や 分 野 が 様 々な 事 業 を 通 して 参 画 している 行 政 はネットワークの 一 員 として 専 門 機 能 を 果 たせばよい つまり 行 政 参 加 である その 中 でNPO 法 人 アサザ 基 金 は 生 態 系 を 枠 組 みに 多 様 な 組 織 や 分 野 を 結 び 付 けるビジネスモデルを 提 案 し 続 ける 機 能 を 担 っている これらの 組 織 や 分 野 は 個 々の 事 業 を 通 して 結 び 付 いていく そ れは 組 織 化 された 固 定 したネットワーク とは 異 なる 中 心 の 無 い 動 的 なネットワー ク である 既 存 の 枠 組 みを 越 えたネットワークの 広 がりによって 縦 割 りの 壁 は 内 部 と 外 部 の 豊 かな 交 換 を 生 み 出 す 膜 へと 変 容 する 湖 は 社 会 を 変 える 力 を 持 っている アサザプロジェクト ホームページアドレス J-32
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